旅するお荷物

AIがもたらす創造的破壊(その1)

2025年5月21日

『旅するお荷物 vol.8』
大原 欽也



AIが流行っています。

AIが導入されるにつれて世の中の様々な分野でイノベーションが起こってくる、いや、すでに起こっています。そして、イノベーションは、新規なものや仕組みを生んで、世の中を変えていきます。心にとめておくべきは、新たな創造に伴って、破壊され捨て去られるものも出てくるということです。だから他人ごとではいられないわけです。

AIがもたらすイノベーションの大波に乗っていけるのか、それとも飲み込まれてしまうのか。生き残り、さらに勝ち組になるための条件はあるでしょうか。

イノベーションとしてのAI
イノベーションを起こしていくであろうAIは、情報分野のテクノロジー(テクノロジーでないイノベーションもあります)ですが、新しいテクノロジー到来の際、二つの全く異なる反応が生じることが多いです。一方で、「それは万能の技術だ」「それにできないことはない」という過度な礼賛と、反対に、「なにも変わらない」「大したことはできない」といった無視や侮りです。なぜでしょうか。その理由を、私は無知のせいだと考えます。両者とも訪れるであろう片面しか見ていないのです。かたや創造に歓喜し、かたや破壊を恐れる。けれど、創造と破壊はコインの裏表、常に一つのパッケージに納まったセット品なのです。

だから、正しい対処法は、AIの中身を知っておくことです。なんにしても、まずは敵を知ることから、というわけです。既にイラスト業界などでは軋轢が生じています。これから様々な分野で似たようなことが起こるでしょう。

AIとは何で、何ができて、そして何ができないのか、私なりの解釈をお伝えしたうえで、物流業界への適用を具体的に提示してみました。

AIとはニューラルネットワークである
AIというのは人工知能の略語ですが、実は、なんのかんので、ただいま第3次ブームの真っ最中なのです。それで、第1次、第2次のときも大いに期待されて登場したのでした。ですがその結果は、なんとなく推察できるかと思いますが、“知能”と呼べるほどのものにはならなかったのでした。

これまで、人工の“知能”を構築するために様々な仕組みが提案されてきました。今回のブームを引き起こしたのは、ニューラルネットワークという仕組みです(他もないわけではないですが)。機械学習とかディープラーニングなどというのも、同じグループです。

さて、ニューラルネットワークですが、それは、動物の脳の構造を模したコンピュータープログラムといえます。つまり、脳は脳細胞(ニューロン)同士がつながる(ネットワーク)のことで機能しているので、その構造をコンピューター内に構築しよう、というのでニューラルネットワークというわけです。ネットワークとはいいますが、インターネットとかLANなどのようなコンピューター同士のつながりのことではなく、プログラム内での情報のつながりのことです。

ニューラルネットワークの仕組み
意外なことに、ニューラルネットワークの基本構造はシンプルです。以下、そのメカニズムについて説明しますが、シンプルとはいえ少々ややこしいので、この項は飛ばしていただいても概要は掴めるかと思います。

↓ここから

図表2に最も単純なニューラルネットワークの基本構造を示します。〇がニューロンで、ニューロン同士をつなぐ線は、実際の脳ではシナプスといって、このシナプスのつながりでネットワークを形成し、シナプス経由で情報は左から右に流れます。

例えば、左端の図形が「〇」なのかどうか判定したいとします。その図形を縦横に分割して、それぞれのマス目を黒白のどちらかとみなし、0/1の数字にして入力層に送る。情報は隠れ層を通って加工され、出力層に流れて判定される。これだけです。これで「〇」かどうか判定されます(この場合多分Yes)。

なんで?、と思われたことでしょう。その秘密はニューロン同士のつなぎ、つまりシナプスにあります。先ほど、加工、といいましたが、ニューロンを通る時に情報に0~100%の重みづけをしているのです。判定に重要な情報は100%に近く、そうでない情報は0に近くなります。このイメージを図表2では線の太さで表現してみました。その結果、左から右に流れるに従い、情報に偏りが生じて、その偏りが、この場合「〇」かどうかの判定基準になるのです。

ここでまた、なんで?、と思われたことでしょう。ニューロンでの情報の重みづけはどこでどうやっているのだ、と。それは、あらかじめ学習させておくのです。例えば、「〇」ならば、

のような、これは「〇」ですよデータを大量に覚えこませ、ニューロンの重みづけを学習させておくのです。

↑ここまで

ようするに、基本はシンプルなプログラムに学習を施して完成形となるのです。なので、それは、同じプログラムでも学習教材によって結果は違ってくることにもなります。それぞれの使用環境に最適化できるということでもあります。それは汎用性の高さにもつながります。

ちなみに、本物の脳もこのような理屈で動作しているということなので、昔ながらの論議に終止符が打たれたかと思います。その論議とは、「氏か育ちか」で、答えは、両方、でした。生れ出た赤ん坊の頭の中は、空白のホワイトボードでもなければ、完成されたものでもない。それは基本的な構造を持っているけれど、それだけでは役に立たず学習して強化していくが、強化の仕方は環境で変わるということです。ニューラルネットワークも同じです。

なお、今まで説明してきたのは、“教師あり”、つまり学習データに答えを付加しておくのですが、画像生成などは、“教師なし“という、より複雑な方式になります。

【ニューラルネットワークの特徴】
ということで、私もまねごとのレベルですが、組んでみました。数字の「1」と「7」の判定で、図表3に判定の例を示します。

(a),(b)はいいとして、(c)はどちらに判定されてもよかったようにも思えますが、結果は「1」でした。学習データは示しませんが、もしかしたら、「1」にえこひいき気味のデータ群だったのかもしれません。

私が、あえてこの簡単な検討をお見せしたのには訳があります。それは、ニューラルネットワークの特徴の二つを、とても明瞭に表しているからです。

一つは、結果が学習データに大きく依存するということです。これはつまり、どんなアプリケーションを使うのか、ということ以上に、どんな学習データを用意するのか、の方が時として重要になるということです。現実での導入では、ベンダーとユーザーの共同作業で構築する、というイメージをもつべきでしょう。

二つ目は、先ほど、“どちらに判定されてもよかったようにも思えます…”と述べたところです。それは、このシステムを組んだのは私ですが、なぜその判定に至ったのかを私は解らない、というか誰も解らない、ということを暗にいっていたのです。プログラムを組んで学習データを投入するけれど、そこから先はシステムが独自で回路を構築して独自で判定するので、因果関係が全く持って不明瞭なのです。私は製作者なのに製造物責任はない、責任の取りようがない、ということにもなります。

この奇妙な現象、つまり、極めて論理的な機械であるコンピューターのプログラムが、論理的とはいえないような動きを見せながら、まっとうな答えをなぜかひねり出すことに興味を抱いた人も多く、SF作家、哲学者、生物学者、心理学者、脳科学者、等々、様々な方々が議論されています。極端な話、プログラムであるAIにプログラムさせることもできそうで、それが続いた先には、知らず知らずのうちにある特異点を迎え、人間を凌駕する機械生命が誕生する…などと。まあ、これ以上の脱線は避けておくことにします。

※続きは、7月16日号で掲載


【出典元】
・フィリップ・アギヨン,他:創造的破壊の力
・名和高司:シュンペーター
・涌井良幸,他:Excelでわかるディープラーニング超入門
・清水亮:教養としての生成AI
・田中秀弥,他:画像生成AIがよくわかる本
・坂本真樹:坂本真樹先生が教える 人工知能がほぼほぼわかる本
・前野隆司:AIが人類を支配する日
・野村総合研究所:日本の労働の49%が人工知能やロボット等で代替可能に
・ロナルド・イングルハート:文化的進化論
・アリゾナ州最高裁判所(https://www.azcourts.gov/
・モラベックのパラドックス(Moravec’s paradox)とは?(ITmedia Inc.)
・小林雅一:ChatGPTが証明した「モラベックのパラドックス」とは?
(2023.07.08, ダイヤモンド・オンライン)
・Wikipedia:モラベックのパラドックス
・Dreamia(https://dreamina.capcut.com/ai-tool/home)
・チャットGPT(https://chatopenai.jp/

著者プロフィール

大原欽也

主任研究員

職歴
メーカー:研究開発、生産管理、生産改善、原材料調達
物流:工場出荷管理、物流センター管理、SCM開発、コンサルティング


キャリアのスタートはモノづくりでした。調達から製造、出荷まで、様々な角度から関わってきましたが、自身では改善屋だと位置づけています。その後、物流の仕事に移り、出荷、輸配送、倉庫管理、サプライチェーン等の管理や改善を行ってきました。統計的管理や生産管理、会計管理等の手法を物流に適用して、オペレーション改善、マテハン制作、システム開発、SCM開発等で、改善屋としての仕事をしてこれたと思っています。

得意分野

  • 生産管理
  • 工場出荷管理
  • 物流センター管理
  • SCM開発
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