マースク 年間7.2億~9.5億のコスト削減へ ジェミニ効果は想定以上
Daily Cargo 2025年11月10日掲載
マースクのヴィンセント・クラークCEOは6日に開催した投資家・アナリスト向け決算説明会で、ハパックロイドとの長期業務協力「ジェミニ・コーポレーション」によるコスト削減などの効果が想定以上になると明らかにした。当初は年間約5億ドルの効果を見込んでいたが、最新の予想では、スケジュール順守率90%以上の達成で燃料消費量の削減や資産効率の向上が図られるほか、ハブとする自営ターミナルのコンテナ取扱量増加により、合計で年間7億2000万ドルから9億5000万ドルの効果が出るとした。
既報のとおり、マースクの海運事業の7~9月期決算は、売上高が17%減の91億7700万ドル、EBITDAが55%減の17億8700万ドル、EBITが80%減の5億6700万ドルとなった。運賃市況の悪化などもあり、前年同期比では大幅な減収減益となったが、前四半期(4~6月)比では売上高が7.1%増、EBITDAが24%増、EBITが約2.5倍となった。
コンテナ輸送量は前年同期比7.0%増の339万7000FEU。内訳は東西航路が9.6%増の158万8000FEU、南北航路が4.4%増の109万3000FEU、域内航路が5.4%増の71万6000FEUだった。FEU当たりの平均運賃は31%減の2244ドルと大きく下落した。東西航路は27%減の2661ドル、南北航路は17%減の3246ドル、域内航路は1.7%増の1649ドルだった。これにより、1~9月期のコンテナ輸送量は3.8%増の955万8000TEUとなった。一方で、FEU当たりの平均運賃は15%減の2305ドルと下落した。
クラークCEOは海運事業の決算について、「ジェミニの効果をフルで受けた最初の四半期となった。スケジュール順守率90%以上の信頼性を維持しながら、当初の目標をはるかに上回るコスト削減効果を生み出した。海運事業の優れた業績は、堅調な輸送量と高い資産稼働率、回転率に支えられている」とコメントした。通年の世界のコンテナ荷動きの成長率予想についても、プラス4%程度(前回予想はプラス2%から4%)に修正した。
ジェミニは、マースクやハパックロイドの運営ターミナルを拠点港としたハブ&スポーク体制のコンテナ船サービスを展開する。長距離のメインライナーサービスでは寄港地を絞り込むことで、スケジュールにバッファをもたせるとともに、港湾混雑に伴う遅延リスクの最小化を図る。自営ターミナルを中心としたハブ港でシャトル航路に接続し、迅速かつ安定的な輸送を実現している。
ハブ&スポークのサービスにより、船舶の効率的な運用や、減速航海の推進、航行距離や停泊時間の短縮が可能となり、燃料消費量を削減できる。この結果、7~9月期は燃料消費量の減少で1億3500万ドルのコスト削減効果が出た。季節要因も織り込んだ年間ベースでは、4億5000万ドルから5億5000万ドルの削減効果が出ると予想している。船舶などの資産回転率の向上による効果は、7~9月期に5000万ドル出ており、年間では1億5000万ドルから2億ドルの効果があるとした。またターミナルにおいても、ジェミニのハブとなるターミナルを中心にコンテナ取扱量が好調に推移している。7~9月期に4000万ドルの効果があり、年間では1億2000万ドルから2億ドルの効果が出る見通しだ。
ターミナル事業全体としても、7~9月期の売上高が22%増の14億4800万ドル、EBITDAが18%増の5億100万ドル、EBITが69%増の5億7100万ドルと好調に推移した。直近12カ月間の投下資本利益率(ROIC)も17.2%と上昇傾向にあり、中期目標の9%以上を大幅に上回っている。ただ一部のターミナル拠点では、短期的に稼働率が限界に近づいており、業務効率が低下する可能性が出ている。このためクラークCEOは、「ターミナルのボトルネックを解消するための投資を継続する」と説明した。具体的には、このほどクロアチアのリエカ港で新たなターミナルが本格開業したが、「その他いくつかのプロジェクトも進行中だ」と述べた。
スケジュールの順守率向上により、競合他社との差別化を図る中、運賃戦略についても変化していく可能性がある。クラークCEOは、「(順守率向上を背景とした)運賃プレミアムに関して議論を開始したが、まだ明らかにするのは時期尚早だ。十分な実績を積み重ね、顧客に対して価値を創出していくことが重要となる。長期的には、信頼性向上によって在庫削減が可能となった荷主の在庫コスト分の一部を、運賃プレミアムとして当社が獲得できる可能性はある」と述べた。
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