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マースク スエズ運河経由に回帰へ 情勢改善で再開機運高まる

Daily Cargo  2025年11月27日掲載


スエズ運河庁とマースクグループは11月25日、戦略的パートナーシップを締結したと共同発表した。マースクグループが運航する船舶に関して、紅海の状況を踏まえた上でスエズ運河の通航を再開することで合意した。紅海情勢が悪化した2023年末以来、約2年ぶりのスエズ運河回帰となり、東西基幹コンテナ航路のルートが正常化する見通しだ。

紅海情勢の悪化に伴い、マースクを含む主要コンテナ船社は23年末からスエズ運河・紅海ルートの航行を停止した。船舶や貨物、船員の安全が確保されるまで、喜望峰経由のルートで迂回航行を行う方針の船社が多かったが、イスラエルとイスラム組織ハマスによる停戦合意を受けて、足元では状況が改善しつつある。最新の状況を踏まえ、スエズ運河への回帰を検討する動きが高まっていたが、コンテナ運航船腹量第2位のマースクが今回、正式に回帰する方針を明らかにした。

今月25日に戦略的パートナーシップの調印式が行われ、スエズ運河庁のオサマ・ラビー提督とマースクのヴィンセント・クラークCEOが立ち会った。スエズ運河庁によると、マースクは12月初旬にもスエズ運河経由への運航を始めるとしている。

紅海情勢改善の兆しを踏まえ、今年10月と11月のスエズ運河における航行数は回復傾向にある。ラビー提督は、「今回のマースクグループによるスエズ運河経由の復帰は、東西航路における最速で最短、最も安全に輸送できる最適なルートとして、サプライチェーンの持続可能性に向けた正しい方向への回帰を意味する」とコメント。今後の航行数の増加に対して期待感を示した。

スエズ運河庁はこれまでも、コンテナ船の通航促進に向けた取り組みを進めてきた。今年5月からは純トン数13万トン以上のコンテナ船を対象に通航料を15%引き下げる措置を実施。同措置によって、大型コンテナ船の通航実績も増えたようだ。マースクは、スエズ運河庁が柔軟な価格政策を含むさまざまな課題に対処するための政策を行っていることに感謝の意を示した。その上で、マースクグループにとってスエズ運河は、重要な海上輸送ルートのみならず、東ポートサイドにおけるコンテナターミナルの戦略的パートナーでもあると強調した。同社のターミナル事業会社APMターミナルズは今月、東ポートサイドのスエズ運河コンテナターミナル(SCCT)の大規模拡張工事を完了。年間コンテナ処理能力が約700万TEUまで増強した。マースクとハパックロイドによるジェミニ・コーポレーションのハブターミナルとして活用していく方針だ。

スエズ運河庁は今後、全ての船社と集中的な協議を行う方針としている。同庁はCMA-CGMとの協議においても進展し、同社が12月からスエズ運河の通峡を再開すると説明した。また、ZIMのエリ・グリックマン社長兼CEOも20日に開催した決算説明会で、「近い将来にスエズ運河へ復帰する可能性は高まっている。情勢が安定した時点でスエズ経由ルートへの移行を支援するためのオペレーションプランを準備している」と明かしている。

一方で、スエズ運河の回帰が進めば、コンテナ船マーケット全体で船腹供給過剰が進むと懸念されている。現在は喜望峰経由への迂回により、TEUマイルが延びており、余剰船腹量を吸収している。スエズ運河の通航が再開されれば、吸収していた船腹量が開放されることになる。需給環境が大幅に軟化し、運賃下落が進む見通しだ。また、一時的に喜望峰経由のルートとスエズ運河経由のルートが混在することで、スケジュール上、本船の到着が集中する恐れもある。港湾混雑が発生し、円滑なサプライチェーンに影響が出る可能性もありそうだ。

また、本格的なスエズ運河経由への回帰にはまだ時間がかかるとの見方も強い。保険会社や船主の承認が得られるまで回帰は難しいとの声もある。あるコンテナ船社関係者は、「紅海の情勢は流動的で見通しも不透明だ。紛争に逆戻りせず、フーシ派による攻撃が起こらないことが明確になる必要がある」(コンテナ船社関係者)としている。ルート変更に伴う配船調整にも時間がかかることから、主要コンテナ船社が本格的にスエズ運河経由に戻っていくのは来年以降との見方が強くなっている。


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