働いて働いて働いて働いて働く!裁量労働制の規制緩和について
2025年12月17日
労務管理ヴィッセンシャフト vol.41
野崎 律博
1.2024年問題の解決となる?労働時間規制の緩和
今年も残すところあと1箇月未満となりました。高市内閣も発足し、労働行政も新たな動きが始まろうとしております。ところで高市首相といえば、日本初の女性内閣ですが、今年の言葉「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」が流行語大賞となりました。新内閣発足に向けた力強い言葉を感じましたが、本政権では労働行政の規制緩和への取組に関する意向を示しております。高市内閣は「心身の健康維持」と「従業員の選択」を前提として、労働時間規制の緩和を検討するよう、厚生労働省に指示しました。
働き方改革関連法といえば、時間外労働の上限規制が年頭に浮かびます。とりわけ運送業においては、2024年にドライバー職の時間外労働上限規制が適用されたことは、記憶に新しいです。業界では上限規制により過重労働を抑止する効果が期待できる反面、歩合給で稼ぎたい労働者側との矛盾が生じていることも指摘されており、何らかの解決が期待されます。
話を戻しますが、高市首相が厚生労働大臣に指示したことは、現行の時間外労働上限規制について、柔軟的化する方向性についてです。時間外労働の上限とは、36協定締結があっても、年間720時間以内、月平均80時間以内かつ単月で100時間未満である必要があります。(ドライバーは年間960時間が上限、単月や平均の規制は無)また裁量労働制、高度プロフェッショナル制度の対象拡大なども、規制緩和の検討対象であると報道されております。
さて、時間外労働の上限時間などはさておき、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度とは、いかなるものでしょうか?今週はこのことにふれたいと思います。
2.裁量労働制について
裁量労働制とは簡単に申しますと、実際に働いた時間に関係なく、あらかじめ労使協定等で定めた「みなし労働時間」を働いたと「みなす」制度です。「管理監督者以外でそんなことが認められるの?」と思われるかもしれませんが、要件を満たせば行うことができます。中小企業等では採用事例も少ないと思われますので、裁量労働制について簡単に説明いたします。
裁量労働制は労基法で定められております。大きく分けて二つありますが、一つは専門業務型裁量労働制で、二つ目が企画業務型裁量労働制です。
専門業務型裁量労働制とは、研究者やシステムエンジニア、デザイナーなど、高度な専門的知識や技術を必要とする職種に従事する人のみが対象となります。(対象業務の詳細については、図表をご覧ください)。専門業務型裁量労働制で定めるみなし労働時間は、対象業務の遂行に必要とされる時間を1日あたりの労働時間として定める必要があります。実労働時間にとらわれず、労使協定によりみなした1日の時間を労働時間として算定する制度です。また年少者や妊産婦等、一定の労働者には適用できませんので、注意が必要です。
専門業務型裁量労働制を採用するにあたっては、労使協定を締結する必要があります。労使協定には「対象業務を遂行する手段、時間配分等の決定に関し、対象労働者に具体的な指示をしない」旨の事項を締結する必要があります。また協定の有効期間は3年以内とすることが望ましいとされております。
企画業務型裁量労働制とは、事業運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析に従事する労働者が対象となります。具体的に申しますと、業務の性質上これらを適切に遂行するには大幅に当該労働者の裁量に委ねる必要があるため、「業務遂行の手段や時間配分の決定」等について使用者が「具体的な指示をしない」業務に従事する者が対象となります。
企画業務型裁量労働制を採用するためには、事業場に労使委員会を設置し、当該労使委員会がその委員の5分の4以上の多数による議決により一定の事項を議決し、個別の労働契約や就業規則の整備を行った上で、所轄労働基準監督署に決議書を届出する必要があります。労使委員会の議決内容としては、①対象業務②対象労働者の範囲③対象労働者の1日あたりの労働時間④労働者の健康及び福祉を確保するための措置⑤苦情の処理に関する措置⑥対象業務に就かせる労働者の同意、及び同意しなかった場合の解雇その他不利益取り扱いの禁止等について協議を行う必要があります。また、本制度に基づく労使委員会の議決の届出を行った使用者は、当該議決が行われた日から起算して6カ月以内ごとに1回、対象労働者の労働時間の状況及び健康福祉確保措置の実施状況等について、所轄の労働基準監督署長に報告する必要があります。
3.高度プロフェッショナル制度について
高度プロフェッショナル制度の歴史は浅く、2019年からスタートした働き方改革関連法で施行された制度です。高度プロフェッショナル制度は、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象に、労基法で定められた労働時間、休憩、休日及び深夜割増賃金に関する規定を適用しない制度です。対象業務は金融商品の開発業務やディーリング業務、アナリスト、コンサルタント、研究開発業務等です。また年収要件1075万円以上という年収要件もあります。導入にあたっては、企画業務型裁量労働制と同様に労使委員会を設置、一定事項について議決し、所轄労働基準監督署長に届出する必要があります。また企画業務型裁量労働制と同様に、対象労働者の同意を書面で得る必要があります。
本制度は既に欧米のホワイトカラーで広範に採用されていた制度であり、俗にホワイトカラーエグゼンプションといわれております。
4.今後の働き方改革について
働き方改革の目指すところは、多様で柔軟な働き方の実現を目指すとともに、長時間労働の是正、非正規と正規労働者の格差是正、高齢者の就労促進等が柱となります。既にスタートしている働き方改革にも、これら趣旨は存分に反映されているのですが、現在のテーマは一定業種に関する労働時間管理の在り方を、柔軟な対応としてゆくべく進めてゆくことにあります。具体的には高市内閣の働き方の要点として、「労働時間規制の緩和」を主軸とするものであることは、新聞等で報道されております。その際の大きな課題となるのは、時間外労働の上限規制に関する緩和が挙げられますが、これらは過労死の危険性から、過労死遺族及び労働組合などから強い懸念と反対の声も上がっております。一方運送業に関しては、時間外労働の上限により、輸送能力の低下や、労働時間規制に伴う収入減及び人材確保が困難となる等の問題を抱えており、今後の改革が期待されます。

図表(出典元:厚生労働省「現行の裁量労働制について②」)
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https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000933775.pdf