続・徒然日記

客船クルーズが日本に定着

2026年4月15日

『続・徒然日記』
葉山 明彦


日本の旅行で、客船クルーズというのがこの十数年すっかり定着してきた。クルーズのよさは、豪華な食事はもちろん船内で毎日いろいろなイベントが盛りだくさんにある一方、プールありジムあり、図書館ありカルチャー教室ありで、町で暮らす日常と変わらずに過ごすこともできる。何もしたくなければデッキで海をみてボーとしていればよい。そして居ながらにして旅先地に着き、旅行を楽しめるという日常から非日常につながるパラダイスにある。

かつて客船は一部の金持ちしか乗れないというイメージがあったが、20年ほど前から日本船だけでなく外国船が日本周遊を主とする東アジアマーケットに進出、クルーズの楽しみを廉価で提供して客層を底上げしたのが大きい。私は若いころ客船クルーズの取材を何度かしたことがあるが、最近の環境変化でリタイヤした今は客として乗船する機会が出てきた。そんなわけで今回は客船クルーズの今昔について書いてみる。

◆バブル時代に黎明
日本に客船クルーズ時代が到来したのは今から37年前の1989年だ。日本船社による新造豪華客船3隻が就航し、また世界を代表する豪華客船クイーンエリザベスⅡ世号が横浜開港100年の横浜博覧会で外国船として初めて日本に来た年である。当時はバブル経済の最盛期だったこともあり、異常な盛り上がりをみせた。日本ではそれまでも商船三井客船(現在の商船三井クルーズ)がチャータークルーズを中心に戦後客船の灯を守ってきた。ただ、一般的には人が乗る船というと輸送のためのフェリーがほとんどで、他に観光地の遊覧船を除けば楽しむ船はほとんどなかった。日本は海に囲まれた島国なのにこの時まで市場が育たなかったのは、①日本は冬場に近海が荒れる②日本人は船に酔いやすい(三半規管の関係?)③市場の対象となる金持ち層が薄い-などいろいろと言われたが、船舶の大型化やスタビライザー(揺れ防止の安定化装置)その他のイノベーションによる揺れの抑制、高齢社会化と生活水準の上昇による対象層の拡大もあり、それまで夢であった日本での客船クルーズ事業化が実現した。

日本船社の前述の3隻とはクリスタル・ハーモニー(日本郵船、現在の飛鳥Ⅱで郵船クルーズが運航)、ふじ丸(商船三井客船、2013年引退・外国売却)、おせあにっくぐれいす(昭和海運=後に日本郵船と合併、船は売却)で、これと前後して川崎汽船、日本クルーズ客船などが客船に進出。さらに翌年、翌々年と郵船、商船三井の次号船も出てきて市場は急拡大した。ただ、その後のバブル経済の崩壊で数年続いた第一次客船ブームは徐々に衰退、海外に売却された船も出て市場は低迷していった。


写真①クリスタルハーモニー(1996年当時、現在の飛鳥Ⅱ)

◆日本市場に外国船参入
船会社は生き残りをかけ需要発掘に躍起したが、そんな中で世界一周という新市場を開拓。1996年に日本郵船が飛鳥(Ⅰ)、1998年には商船三井客船がにっぽん丸で世界一周クルーズを開始。これと前後してコンセプトは異なるがピースボートが若者を主にチャーター船で廉価な世界一周を始め、さらに外国船も参入して毎年のように日本発着の世界一周が行われていった。

写真②MSC船の中央天井ドーム、豪華な映像の変化が有名だ(MSCグランディオーサ)

写真③クイーンエリザベス(2024年佐世保)

写真④客船の停泊時は巨大ビルさながら(横浜大桟橋のダイヤモンドプリンセス)

もう一つは日本近海の周遊だ。世界一周など海外の大がかりなクルーズの一方、手短かに数日から10日間程度で日本の地方の祭りや四季折々の行事など盛り込んだクルーズが同時に行われた。当初は日本船の独断場だったが、21世紀に入ると外国船社がこの市場に廉価版で参入、これが今日の客船クルーズ需要の拡大につながっていった。

外国籍船の場合、日本周遊とは言っても必ず一港、外国に寄港する。これは法律で日本国内のカボタージュ規定(自国内輸送は自国事業者・自国船籍に限定し外国事業者の参入を原則禁止する制度)があり、一度でも出入国すれば外国航路となりそれに抵触しないからだ。寄港地のほとんどは近場の韓国(釜山か済州島)か台湾(基隆)で、普段はあまり行かない近場の外国都市を観光するも一興である。

サービス品質は船のグレードと客室
ここで客船のグレードの説明をしておく。客船にはレーティングがあり、1990年代は☆数で5つ星プラスを最高に専門家による格付けが行われていた。ただ、最近はそれをあまり耳にせず、「ラグジュアリー」「プレミアム」「カジュアル」という分け方をしているようだ。基準としているのは、乗客数とクルー(従業員)の割合で、例えばクルーが500人に対し乗客が700人の船と1500人の船では客へのサービス度が異なる。その意味では乗客定員が多い大型船より日本船社などの小型船が一般的にサービス度は高くなる。同じ船でもステートルーム(客室)でクラスが別れ、部屋の広さだけでなくレストランと食事、利用施設、寄港時の優先上陸その他サービスが違ってくる。最上階の広いペントハウスから下階へ徐々にグレードが形成され、会員制で施設を分けている船もあれば、アウトサイド(窓やバルコニーがある客室)やインサイド(窓のない客室)によって料金が異なってくる。料金については、上は青天井の感があり下は十万円台まで千差万別で、リピーターを割引する船会社もある。

◆ドレスコードも障壁にならず
次に気になるのはドレスコードだ。ディナーからのナイトライフは日によってフォーマル、インフォーマル、カジュアルに分けてその日のコードが示される。これもある人には楽しみなのだろうが日本人は気が重くなる人も多いのではないか。女性の衣装揃えもたいへんだが、男性はフォーマルの衣装に場慣れしてない。私はこの2~3年日本近海の周遊で外国船3隻に乗ったが、女性はドレスコードに沿って全般的に華やかに装っているものの、男性はフォーマルに厳格に対応している人はそう多くなかった。特に格式のあるキュナード社のクイーンエリザベスの時は、フォーマル日に緊張感を持ってタキシードで臨んだが、日本人の男性客はジャケット姿にネクタイのインフォーマル風が多く、中にはダークスーツや礼服の方もいた。日本周遊で乗客の半数以上が日本人ということもあるのだろう。他2隻もこの傾向はそう変わらなかった。

食事はステートルームで決められるレストランで洋食メニューからアぺタイザー(前菜)、スープ、メインディッシュ、デザートを選ぶのだが、船によって席が固定されている場合、その時によって適宜に案内される場合、予約の要不要などさまざまだ。食事はクルーズで大きな楽しみの一つだが、堅苦しいならバイキング形式で好きなものを食べられるカジュアルなレストランも必ずあり、そちらに行くのも自由だ。洋食はフレンチ、イタリアン、アメリカのジャンクフードまで種類が豊富。中華や和食もあるので心配はいらない。これなら小食も大食漢も食べたい量を食べられる。

◆日本の新鋭船が続々就航
最後にこれからの日本の客船クルーズ展望だが、一昨年から日本船社の新鋭船が続々登場して新たな動きが始まっている。郵船クルーズが2024年7月飛鳥Ⅲを就航させ、郵船の顔だった飛鳥Ⅱとともに外航・国内で活躍している。また商船三井クルーズは米国のラグジュアリー船運航会社シーボーンから購入した「シーボーン・オデッセイ」を日本人向けに改修し「三井オーシャンフジ」として24年末に就航させたほか、姉妹船の「シーボーン・ソジャーズ」も購入・改修を行って26年9月から「三井オーシャンサクラ」として運航を始める。これらはみなラグジュアリー船で、この分野に新風が吹くことで日本のクルーズ界全体が刺激を受け、さらに楽しい次の時代を描くようになってもらえればよいと思う。(了)


写真⑤日本の新鋭船が続々登場(横浜で就航前の飛鳥Ⅲ)

著者プロフィール

葉山明彦

元 国際物流紙・誌の編集長、上海支局長など歴任

40年近く国際関係を主とする記者・編集者として活動、海外約50カ国・地域を訪問、国内は全47都道府県に宿泊した。国際物流総合研究所に5年間在籍。趣味は旅行、登山、街歩き、温泉・銭湯、歴史地理、B級グルメ、和洋古典芸能、スポーツ観戦と幅広い。

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