旅するお荷物

倉庫業から物流統治へ

2026年9月16日

『旅するお荷物 vol.20』

大原 欽也


-物流事業者が主導する物流マネジメントを目指して-

実際問題、倉庫オペレーションでは、主体的に運営できることが少ないのではないでしようか。いつどこになにをどれだけ出荷するかは、当然ですが顧客の都合なので、指示――それも場合によっては直前の指示――に依存することになります。

一方、入荷はどうかというと、これも当然ながら、顧客が送り込んでくるので、やはり、いつなにがどれだけ入ってくるかを決めることはできません。そこで、入出荷のバランスが崩れると、倉庫に収まりきらなくなったり、逆に在庫が底をついて欠品したりします。

このように、倉庫オペレーションの混乱が外部要因で起こってしまうのですが、それもこの業界の宿命なのさ、とばかり諦念の境地に達してしまうのも、いかがなものかと思うのです。

私が提案するのは、倉庫主導の物流システムの構築、それも、評判に賛否があるVMIをベースに改善することです。まずは、VMIの功罪から説明します。

※VMI(Vendor Managed Inventoryの略:「ベンダー主導型在庫管理」のことで、商品や原材料を供給するベンダー(メーカーや卸売業者)が、顧客(小売業者や製造業者)の在庫状況や販売データを基に、最適なタイミングで必要な数量を補充する仕組み。Copilot (出典元)

【悪いVMI】
ご承知の通り、VMI(Vendor-Managed inventory)は、読んで字の如く、供給する側が調達元の資材在庫を過不足なく管理することです。これはこれで、かなりの負担になるのですが、供給者は物流のノウハウがないことが普通なので、結果、物流業者にその役割がまわってくることになります。ようするに、供給者が管理すると謳いながら、実体は調達元のバイヤーが自分の業務を購買先に丸投げしたようなものだし、最終的に物流業者にしわ寄がきてしまった…かのように見えます。

もっというと、いざフタを開けてみると、基準在庫量があいまいだったり、リードタイムや納入時刻が決まってない、さらには情報伝達手段が不備だったりすることもあって、そんなとき、供給者を通して納入先に話をしようにも、時間ばかりかかる伝言ゲームで、そもそも現状を理解してもらって共通認識に至ることさえ苦労してしまう…。

なにやら不満の吐露のようになってしまいましたが、こんなことばかりではありません。

良いVMI
実は、かんばん方式の納品もVMIのひとつだといえると思います。それもきわめて巧妙な仕組みです。この方式にも賛否はあると思いますが、まずは、その仕組みの巧妙さを具体的に説明します。

図表1にオペレーションのフローを示しますが、ここでの物流管理における情報源は、かんばんと称するカードだけなのです。かんばん枚数分の製品を出荷し、納品したついでに別のかんばんを持ち帰り、その枚数が次回(もしくは次々回、もしくは次々々回…)の出荷数量となる、というサイクルを繰り返します。かんばん枚数は上下限が決められていて、また、リードタイム、納品時刻も決められています。加えて、月末には次月の日々予定量の内示がEDI等で連絡されるので、出荷する側も予定を立てやすくなっています(場合によっては2ヶ月先、3ヶ月先の予測も提示)。

図表1:かんばん方式のフローのイメージ

つまり、誰の頭も悩ますことなく、平準化されたオペレーションがサイクリックに回る仕組みなのです。調達者だけでなく、供給者、物流業者ともに効率化しうる仕組みです。ちなみに、このような仕組みを「自律神経」と呼んでいる顧客もありましたが、イメージにぴったりだと感じました。

念のため付け加えると、重要なのは情報伝達の仕組みであって、かんばんというカードさえあればよい、というものではありません。実際、かんばんも電子情報として運用されるケースも増えているくらいです。

そうであれば、物流事業者としては、押しつけられる前に積極的に提案すべきではないでしょうか。もちろん、提案できるケースとできないケースはあります。とはいえ、それは過去の出荷実績を精査すれば判断できるはずで、わざわざ先方の現場に赴いて確認するほど微妙なものではないと思います。

以上、かんばん方式的なVMIのメリットについて説明しました。が、既に気付かれたかもしれませんが、これは話の半分でしかありません。残りの半分に、あまり語られることのない問題があるのです。

【課題と対策】
図表2をご覧ください。今まで説明してきたのは、図の右半分の仕組みです。実際は、図の左の部分、つまり左端の供給者から真ん中の倉庫へもつつがなく補充しなくてはならず、それがうまくいかないかぎり、過剰在庫や欠品の問題は解消されません。

図表2:サプライチェーン全体のイメージ

ところが、それは供給者の仕事としてしまうと、物流のノウハウが乏しいこともあり、上記の問題が起こってしまうのです。個人的な感覚ですが、かんばん方式で運用していて問題が起こるのは、こちらの方が多いように思います。

では、どうすればよいかというと、図の左側、つまり供給者の出荷も管理すればよいのです。これは、倉庫の立場でいうと入荷ですから、入荷・出荷共に管理するということです。サプライチェーン全体を中間の倉庫が主体となって管理するということです。

では、なぜ倉庫が管理の主体になるのがよいかというと、そこに情報が集約されるからです。その情報とは、出荷(かんばん)、庫内在庫、入荷、ですが、三つ目の入荷情報(量、タイミング)は前の二つからしか作れません。だからこそ、サプライチェーンを倉庫が管理すべきなのです。表題に「統治」という言葉を使ったのは、そういう意味です。

【マネジメント】
この左側の仕組みは、必要に応じた補充なので、かんばんを使うかどうかはともかく、倉庫への補充も後工程引きとなります。その仕組みの設計に当たっては、輸送ロットがより大きくなり、従って、補充間隔はより長くなる事を考慮します。つまり、小ロット多頻度の出荷に応じて、大ロット少頻度の入荷を調整することになります。入と出の違いによって脈動が生じるので、在庫は脈動吸収のバッファーと見做して基準在庫量を定めます。

結局、図表3のようなイメージです。倉庫を中心に左右で分割され、右はかんばんの引きにより出荷し、左は在庫減少に応じて補充依頼します。換言すると、かんばんの要請に応えるために適切な在庫管理が必要となり、適切な在庫管理のために在庫状況に応じた補充が必要になるのです。倉庫が管理主体となるべきだという意味がおわかり頂けるでしょうか。

図表3:サプライチェーン全体のマネジメントのイメージ

このように、在庫量に従って補充する仕組みを作れば、破綻することはなくなります。しかし、できれば、より高精度の管理をしたいものです。

【精度アップをめざして】
サプライチェーンの上流へ遡上するにつれ在庫量の変動が異常に増幅する現象がブルウィップ効果ですが、今回述べた過剰在庫や欠品の問題もメカニズムとしてはブルウィップ効果の結果といえます。

そして、ここがポイントなのですが、実は、私が先ほど提案した管理方法ではブルウィップ効果の変動を完全に防ぐことはできません。原理的にできないのです。それでも、破滅的なオーバーシュートは抑え込むことができるということです。

そもそも、なぜ遡上するにつれて在庫量の変動が増幅するのかというと、下流側の変動に対して上流側の調整を過剰にしてしまうからです。アクセルもブレーキも踏みすぎるイメージです。これはなにも、属人的にオペレーションしたせいではなく、システムで動かしていても、アクセルやブレーキが数値として入っているから同じことです。ところが、そこを緩めに設定しても、いざというとき事故につながるのです。原理的にできない、と言ったのはそういう意味です。

それでは、もっと効果的な変動抑制方法があるのかというと、ひとつあります。図表4に示します。図表3に斜めの矢印が追加されただけです。この矢印の意味するところは、回収したかんばん枚数を参照するということです。それはつまり、次回の出荷予定量、次回の在庫減少量も参照する、ということです。補充量の決定に、現在の在庫量だけでなく、その変化度合いも使用するという事でもあります。

図表4:サプライチェーン全体のマネジメントのイメージ

参照する変数を一つから二つにして調整する事で、精度が向上するのは感覚的に理解していただけるかと思いますが、実行するとなると厄介ではあります。

【ハイパー・マネジメント】
ここまでくると、たいてい人間の能力の限界を超えているし、かといって、キチンとしたロジックもうまく組むのは難しいです。では、どういうやり方があるかというと、やり方は二つあります。

一つは、ロジックというよりは、しらみつぶし的に答えを見つけるアルゴリズムをシステムに組み込むことです。いつぞや紹介した最適化問題という解法の一種です。適応するとなると、スクラッチ開発にはなると思いますが、簡単なプログラムなので、現状のシステムにアドオンできることも多いはずです。

もちろん、システムというのは何につけ、想定外の状況にはおかしな答えを出したりするので、システムが何をやっているかを理解しておくことは大事です。

そして、二つ目のやり方というのが、エキスパートの人材育成です。システムの演算に頼るだけでなく、職人の勘を磨くのです。優れた職人が機械の能力を凌駕するように、オペレーションでもシステムが想定できない状況に対処できるようになると思います。システムの導入はその後でもいいのです。十分な技量を持った職人が、複数の物流システムを監督するようになれば、混乱を未然に防ぐマネジメント体系が出来上がるのではないでしょうか。

今まさに、小ロット化と品種増加が起こっているなか、先を見据えた取り組みが必要だと思います。

~メルマガは一方向の情報になりがちです。疑問やコメント等ありましたら、返信いただけると幸いです。~

著者プロフィール

大原欽也

主任研究員

職歴
古河電工株式会社
古河物流株式会社 執行役員


調達から製造、出荷まで、サプライチェーン全般に関わってきました。また、設備導入、システム開発、マテハン設計、SCM構築等、様々な角度から課題解決に取り組んできました。課題解決には、統計手法や生産管理、管理会計等の汎用的な基礎技術が必要です。基礎技術を基に物流ソリューションを提供できれば幸いです。当法人のホームページに「旅するお荷物」と題したコラムも執筆しておりますので、是非ご覧ください。

得意分野

  • サプライチェーン
  • マテハン設計
  • SCM
  • 調達
  • 生産管理
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