物流よろず相談所

選ばれる企業に

2019年6月12日

物流よろず相談所 

 

新元号の滑り出しからひと月ほどが過ぎ、節目とも言える大型連休も終え、日本全国で梅雨入りとなりました。5月病等なかなか新生活に馴染めない人々にとっても乗り越えねばならぬ試練の時でもあるはず。新人に限らず、心身のバランスを崩しがちな今の時期は、社員同志、周囲に気を配り、ひと声がけでお互いの辛さや不安を軽くし合えるようにしたいものですね。

大企業のベアにも刺激される中で、中小企業の中には経営が苦しくとも広がる大手との賃金格差を案じるあまり、ベアに踏み切るところもあったと言います。私の知る企業では特別手当として年間1千万円以上の経費負担増となったとのこと。業界内でも上向きの運賃をよそ目に、相変わらずの低価格を要求され続ける業者が多く存在しているのも事実です。

通販の発達で“水1ケース当日配達”も常識化する時代―、“物流の価値に対等な価格を!!”との訴えなど、かき消される勢いで消費者優先傾向が拡大しています。ただしその消費者にとって、またメーカにとって、本当になくてはならないのは、望む品物を直接最後まで責任を持って届ける末端の小規模事業者やドライバーであることを、社会全体で再認識する必要もあるはずです。まずは、業績好調な大手から少しずつ下請け関連へと、その利益を還元していっていただきたい…、全労働者の殆どが籍を置く中小企業が潤おわずして、この国が豊かになるはずなど有り得えないと考えます。道は険しいですが、何はともあれ仕事に誇りを持ち、自分達にしかできない付加価値を崩すことなく、選ばれる物流企業を維持すること。少なくとも“良いものには、お金を惜しまぬ世の中”になってきたことだけは、確かなようであるから―。

景気転換を予測した動きとして、業態に合わせた物流の改革がメーカ別で進みつつあります。依然として大手・中小共に経営統合や買収が進む中、その動きに巻き込まれがちな各現場の調整役として、物流部門の役割が注目されていることも事実です。現在物流が関わる産業は数え切れぬ程ありますが、中でも生産から流通、現場までの規模や種類も多い建設業界に至っては、古くからある独自の商流も根強く残り、物流改革が困難な業界のひとつでもあると言えそうです(それだけに潜むロスも何かと多く改善の余地が溢れているとか-)。

その様な中で、低価格を売りに1994年以来20期連続の増収を更新中の“アキュラホーム”が、住宅業界における商流と物流の見直しに着手し、成果を上げているというお話を耳にしました。自前で物流センターを建設し、手探り状態で始めた物流改革で断行したのは、やはり現場の声を徹底的に吸い上げることだったと言います。センター長自ら現場職人の手伝いを行いながら改善ネタを探ると共に現場に通うドライバーを集めた定期的なドライバーミーティングでも、現場や流通過程にまつわる情報や意見を出し合ってもらい活用するようにしたそうです。建築業界では不可能に近いとも思えるJIT納品を始めとする付加価値物流を積み重ね、センターを含む3者、各々に正しい利益配分を実現することは、SCMの改革にもつながりました。むろん改革も改善も決して計画やマニュアル通りに進むものではなく、2014年2月期売上高397億円(前期比7.8%増)を達成したアキュラホームのセンター内では今でも殆どの作業がフォークリフト以外、機械を使わない人手によるものです。利益を生むのは“人”であることを会社全体でしっかり理解できているからこその実績であることに改めて気付かされます。この事例からも選ばれる企業とは現場と一体となった改革が進んでいるところと言えそうです。

競争に打ち勝つための体力強化を目的とし、今後も進展が予測される企業統合は、ややもすると末端現場を弱らせる要因にも成りかねなません。常日頃から経営の理念と今後の展望をトップが明確にし、現場の理解を得られるように活発なコミュニケーションを取り続けることが“生きた会社”を存続して行く上では不可欠です。人を活かした改革で付加価値物流を売りにするー、成功した賢人に習い参考にさせていただきたいものですね。

著者プロフィール

岩﨑 仁志

代表主席研究員

職歴
 外資系マーケティング企画・コンサルティングセールス


物流・運輸業界に留まらず、製造業や流通業物流部門などを対象にコンサルティングを行ってきました。国内外の物流改善や次世代経営者を育成する一方で、現場教育にも力を発揮し、マーケティング、3PL分野での教育では第一人者とのお声をいただいています。ドライバー教育、幹部育成の他、物流企業経営強化支援として、人事・労務制度改定に携わった経験から、物流経営全般についてのご相談が可能です。

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