労務管理ヴィッセンシャフト

4月より法定時間外労働の割増賃金率が引き上げられます。

2023年4月12日

労務管理ヴィッセンシャフト vol.10


(1)4月からの法定時間外割増率引き上げについて
寒い冬も終わり、うららかな小春日和が続くここ数日ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。さて4月より月60時間を超える法定時間外労働の割増賃金率の引き上げが、中小企業にも適用されます。大企業は既に2010年より引き上げられておりましたが、中小企業は猶予されておりました。しかし本年4月よりこれらが中小企業にも適用されることとなりました。

具体的には1か月の法定時間外労働が60時間までは25%ですが(努力義務として月45時間超えは割増率を引き上げる必要があります)、60時間超からは50%に引き上げられます。細かい話ですが、法定労働時間と所定労働時間というのがありますが、割増賃金が義務化されているのは法定時間外労働についてです。法定労働時間というのは、労基法で定める労働時間の上限のことをいいます。1日8時間、1週間40時間というのが法定労働時間であり、これらを超える労働を法定時間外労働といいます。一方、所定時間外というのは、就業規則等で定める会社の労働時間を指します。例えば業務開始9時で終業時刻が17時の場合、お昼休みが1時間だとすると、1日の所定労働時間は7時間となります。仮にこの会社で1時間の時間外労働があった場合、その1時間は所定時間外労働ではあるものの、法定労働時間の8時間を超えてないことから、割増率を課す必要はありません。通常の1時間に相当する賃金を支払うことで、義務は果たされます。

それでは2時間の時間外があった場合は、どうなるのでしょうか?2時間の内1時間は所定外労働時間となり、通常の時給の支払い義務が生じます。1日の法定労働時間は8時間なので、もう1時間は法定時間外労働となり、割増率が課せられることとなります。

(2)代替休暇付与をもって割増賃金支払いに替える方法
この法定時間外労働が1箇月60時間を超えた場合、50%の割増賃金を支払う代わりに、代替休暇を付与することもできます。代替休暇というのは、簡単に申しますと、法定時間外労働に相当する有給休暇を付与することで、割増賃金の支払いを免除される制度です。ただし、代替休暇で免除できる割増賃金は、月60時間超で生じる引上げ分に相当する割増率(通常は25%)のみとなります。(図①参照)

代替休暇として付与できる時間数を算出するにあたっては、月60時間超えの法定時間外労働に対し、引き上げる割増率(換算率)を乗じて算出することになります。例えば、月60時間までは割増賃金率が25%である場合、換算率は50%-25%=25%となります。仮に月92時間の法定時間外労働があった場合、92H-60H=32Hが60時間を超える労働時間であり、この32Hに換算率(25%)を乗じることで、付与できる代替休暇時間が算出することができます。(32時間×0.25=8時間)

(3)代替休暇の制約について
この代替休暇ですが、一見よさそうに思えますが、様々な制約があります。代替休暇を付与する単位は、1日または半日が原則となります。原則の裏には例外ありで、時間単位年休を代替休暇として付与することもできますが、その場合は時間単位年休の労使協定が必要です。また仮に労使協定を締結しても、時間単位年休は1年間につき5日に相当する時間しか付与することはできません。

「なんて融通が利かない制度だ?」と思われるかもしれません。その理由ですが、行政は年次有給休暇を暦日単位で与えることを原則としているからです。つまり「1日丸々休みが与えられないと、労働者はリフレッシュできないでしょ?時間単位年休なんて認めたら、使用者側に都合の良いように使われてしまう」という考えが根底にあります。

代替休暇に話を戻しますが、仮に半日の代替休暇を与えるには、最低でも月に76時間以上の法定時間外労働がなければなりません。(計算式:(76H-60H)×(50%-25%)=4H)。しかもこの代替休暇は、「1か月60時間を超えた月の末日の翌日から2か月間以内の期間で与える」という制約もあります。よって1箇月で半休に相当する残業が無かったとして、翌月賃金支払期間の60時間超えの残業があれば、それも上乗せすることができます。しかし、取得の期間に制限があるため、時間が足らなければ代替休暇を付与することができず、割増賃金の支払義務を果たす必要が生じます。

以上の話をお読みになって、どう思われましたでしょうか?ざっと私が思うに、「賃金計算や労働時間管理をしているご担当者の方の業務が煩雑になりそう」ということです。代替休暇を計算する労務管理ソフトがあれば、別なのですが。

図①(厚生労働省「改正労働基準法のポイント」より引用)https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000uefi-img/2r9852000000ugqj.pdf

著者プロフィール

野崎律博

主任研究員

公的資格など
特定社会保険労務士
運行管理者試験(貨物)


物流事業に強い社会保険労務士です。労務管理、就業規則、賃金規定等各種規定の制定、助成金活用、職場のハラスメント対策、その他労務コンサルタントが専門です。労務のお悩み相談窓口としてご活用下さい。健保組合20年経験を生かした社会保険の活用アドバイスや健保組合加入手続きも行っております。社会保険料等にお悩みの場合もご相談下さい。

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