物流よろず相談所

運賃交渉の進め方

2023年8月30日

物流よろず相談所 


2024年問題が現実味を帯びてきました。政府が閣議決定した物流革新に向けた政策パッケージでも、今後も安定して物流実現にはドライバーの安定確保が必須としています。「ドライバー不足」という明確な重要課題を抱えている運送業界において、現在その対策はどれほど進んでいるのでしょう。2024年4月以降時間外労働が年間960時間までとなるドライバーの有無について業界全体の27.1%が「いる」と回答。特に長距離ドライバーでは48.1%が「いる」としています。それでも時間外割増賃金に係わる準備ができている、とした中小企業は全体の3.9%でしかありません。荷主に到っては改善基準告示を認知している、としたところは16.5%。今だにその「存在も知らない」荷主が50.5%。その「内容までは知らない」荷主も33%―、これらの数字を前に、この先の問題解決が容易ではないことを改めて思い知らされます。

このテーマは2024年問題における中核をなすもの。運送約款の変更で、付加サービスが別途料金であると明示されました。また国交省が示している標準的運賃から見ても安価な物流サービス提供を強いられているというケースも多いようです。物流を止めないための運賃交渉は重要です。しかし、運賃交渉がうまく行かないという経営者の方も多いようです。

理由は?
①何を根拠に交渉を始めたら良いのか
②口頭で伝えたが取り合ってもらえない
③どのくらいの金額を提示すべきか
④荷主企業との関係性を悪くしたくない
⑤正式な契約書がなく、提供サービスが不明確

等の理由で交渉していない事業者も多いようです。荷主企業との運賃交渉は、運送事業者が従業員の雇用を守り、事業を継続していくため絶対必要です。荷主企業との運賃交渉は、根拠のある数字を示し進めるには、口頭でお願いしても簡単ではありません。そのために、①原価計算を徹底することが必要です。交渉先を選定するために、荷主企業別・車両別・コース別に採算が取れているか数字で押さえおきましょう。次に②運賃交渉先の選定です。原価計算に基づき、採算が取れるラインを決め、どの荷主企業に対して、いくら運賃を上げれば採算が取れるようになるかを算出(時間当たりの生産性、距離当たりの生産性も一つの指標)すること。そして③運賃交渉資料の作成です。 運賃交渉には資料の作成が不可欠です。顧客企業担当者の承認だけでなく、顧客企業担当者が社内承認を得る必要性も考慮しなければなりません。

それでは運賃交渉資料に何を記載すればよいのか、検証してみましょう。交渉相談事項として、具体的な交渉内容、まずどのコースでどのくらいの値上げとなるかわかるようにしておきましょう。次にコストアップの要因の説明です。燃料高騰の推移や傭車であるパートナー企業からの値上げ要請の推移、車両関連費用、物流量の推移なども資料として提示しておきましょう。周知の事実であるかも知れませんが、物流業界事情の説明もあった方がいいでしょう(人員不足、ドライバー人件費の高騰、求人費用や育成費用など)。自社の経営状況と顧客別直近3カ年の収支表、赤字となっている場合はその事実を資料で示すことは効果的です。そして値上げをベースとして、次年度の終始シミュレーションも示すようにしましょう。説明には自社での改善への取り組みなども記載した方が良いと思われます(エコドライブ、新卒採用、働き方改革に向けた職場認定や健康経営など)。

国交省が定めた標準的運賃を参考に運賃改定に臨むことも重要なポイントです。業種によっては実勢運賃との乖離から意義を良く理解されないこともありますが、今後物流業界がもらうべき基準を示したものです。運賃交渉の効果によって大阪のある運送会社では、約5年で利益率を8ポイント改善することに成功したという実績もあります。運賃・料金の改善提案を行うとともに、採算が取れない、交渉に応じてくれない荷主企業の仕事からは撤退するなど、荷主企業の入れ替えも実施、新たな荷主企業発掘のための営業を並行して行い、利益率の高い仕事を意識して増やすことで、毎年業績を伸ばすことに成功したというもの。顧客企業の担当者が業界のことをあまり知らないという事であれば、上記に「物流業界の現状や経営課題に関する補足資料」を添付するなどが効果的です。正しい進め方で、数字を根拠にした運賃交渉を行えば、成功率を格段に上げることができます。まずは、きちんと原価計算を行うことが運賃交渉のスタートとなります。

著者プロフィール

岩﨑 仁志

代表主席研究員

職歴
 外資系マーケティング企画・コンサルティングセールス


物流・運輸業界に留まらず、製造業や流通業物流部門などを対象にコンサルティングを行ってきました。国内外の物流改善や次世代経営者を育成する一方で、現場教育にも力を発揮し、マーケティング、3PL分野での教育では第一人者とのお声をいただいています。ドライバー教育、幹部育成の他、物流企業経営強化支援として、人事・労務制度改定に携わった経験から、物流経営全般についてのご相談が可能です。

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