労務管理ヴィッセンシャフト

精神障害の労災認定基準の改正について

2023年11月8日

労務管理ヴィッセンシャフト vol.17



◆「心の病」は実在する!実は脳と小腸の疾患です

去る9月1日付、厚生労働省は「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正しました。昨今、長時間労働や職場のハラスメントなどで心の病を負い休業される方が多くなっております。当事務所の業務でも、会社の従業員様のそういった労務管理に関する相談が増えてきました。

かかる「心の病」ですが、目に見えないということもあり、業務との相当因果関係が難しいです。心の病というと、昨今大きく問題となっている分野であり、ご高齢の方がお若いときは、問題視されてきませんでした。よって「最近の若者は軟弱である」とか「なんでも病気のせいにするな」等といった意見も見受けられます。しかし心の病は精神論でもなければ軟弱化でもない、れっきとした身体の病気です。そもそも「ココロ」なんて人間に存在するのか?哲学的なテーマになりますが、ぶっちゃけた話、心という臓器があるわけではありません。これは哲学的見地からいえば、脳の作用であるとか、ヘーゲル的にいえば「絶対精神にアウフヘーベンする弁証法のプロセスにおける過渡期に表層化されたもの」であるとか、観念的にいろいろ言えてしまうわけですが、そういう形而上学の話ではありません。科学で論証できる病です。

心の病の代表格は鬱病ですが、これは何が原因で生じるのでしょうか?鬱病にも旧来型の鬱病と新型鬱などにわかれますが、一般的に鬱病は体内から分泌される神経伝達物質(セロトニン)の不足により生じるものといわれています。

セロトニンは主に脳と腸で生成されます。体内のセロトニンの約95%は腸で、特に小腸にある腸クロム親和性細胞と呼ばれる細胞で作られます。また、約5%のセロトニンは脳内で生成されます。このセロトニンが、正常に分泌されない状態をもって、鬱病であると診断されます。

そう考えますと、ある意味糖尿病等と同じような病気です。糖尿病は膵臓から分泌される、血糖値を下げる役割を果たすインシュリンというホルモンが、加齢等によって十分に分泌されなくなることによる病気です。誰もが「糖尿病は軟弱の現れだ」とか「ぶっ弛んでいるからそうなる」とかいう人はいませんよね?したがって鬱病が仮病だとか、軟弱性の現れとかいう人は、非科学的な考えの人です。こういう考えの人は、自らの知識をアップデートする必要があります。

◆労災認定基準の改正の中身
それでは鬱病はじめとした精神疾患は、どんな原因により悪化するのでしょうか?結論から申しますと、多種多様であるといえます。ただし労災認定に限定した視点からいえば、長時間労働や職場における様々な出来事による外的要因が挙げられます。

歴史的に遡るなら、厚生労働省は平成23年12月26日付基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」を発信し、これらに基づき労災認定を判断してきましたが、令和5年9月1日より認定基準が改正されました。改正の大きなポイントは、職場における具体的出来事の追加、類似性の高い具体的出来事の統合です。

追加事項として挙げられるのは「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」いわゆるカスタマーハラスメントです。またコロナ禍なども影響したと思われますが「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」等も追加されました。また従来からあった心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」となる具体例を充実し、パワハラ6類型すべての具体例が明記されました。また性的志向や性自認に関する精神的攻撃等を含むことも明記されました。

もう一つのポイントとして、精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲が見直されたことです。改正前は、悪化後おおむね6か月以内に「特別な出来事」(特に強い心理的負荷となる出来事)があって、それが原因で「自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合」のみ労災認定されていました。

改正後は「特別な出来事」がない場合でも、業務による強い心理的負荷により悪化したときは、悪化した部分について業務起因性が認められるようになりました。何をいっているか分かりにくいのですが、「特別な出来事」というのは、従来の認定基準で活用されていた、業務による心理的負荷評価表の中で特に強い心理的負荷となる出来事を指します。具体的には、「特別な出来事」には以下の2つの類型があります:

(1)心理的負荷が極度のもの(2)極度の長時間労働

これらの出来事が認められた場合、業務上の心理的負荷の強度は「強」と判断されます。 改正後はこの「特別な出来事」に該当しない、業務内容や労働環境などから生じる一般的な心理的ストレスが原因で悪化した事案であっても、それが原因で精神障害の悪化が認められる場合、その部分について労災が認められる可能性が生じるよう改正されました。まぁ一言でいえば、認定の幅が広がった(今までより労災認定されやすくなった)という感じです。

その他いくつかの認定基準の範囲が見直されたのですが、これら改正により、従来は認められなかった精神障害の労災認定が行われるようになれば、職場における安全衛生管理体制の大きな向上が見込めます。

著者プロフィール

野崎律博

主任研究員

公的資格など
特定社会保険労務士
運行管理者試験(貨物)


物流事業に強い社会保険労務士です。労務管理、就業規則、賃金規定等各種規定の制定、助成金活用、職場のハラスメント対策、その他労務コンサルタントが専門です。労務のお悩み相談窓口としてご活用下さい。健保組合20年経験を生かした社会保険の活用アドバイスや健保組合加入手続きも行っております。社会保険料等にお悩みの場合もご相談下さい。

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