中小企業も実施義務化が閣議決定、ストレスチェック制度について
2025年5月7日
労務管理ヴィッセンシャフト vol.34
野崎 律博
◆本当は怖い5月病
このメルマガが配信される頃には、GW明けとなっていると思います。毎年この時期になると、話題に上がるのが5月病です。昨今ではメンタル不調や精神疾患も、れっきとした疾病という認識も高まり、労務管理上も適切な対応が行われるようになりました。
皆様は鬱病などのメンタル疾患になってしまった経験のある方はいらっしゃいますか?私は自覚症状が生じるほどの重症にはなったことはありませんが、プチうつ程度ならあります。気分が落ち込む、やる気が生じない程度ですが、本格的なメンタル不調になると、心以外にも様々な体調不良が生じることがあります。昔の私の知り合いに、重度のメンタル不調により、しばらく立つことが出来なくなってしまった人がいます。その人は会社勤めではなく、個人請負でSEをやっていた方なのですが、日々の長時間労働によるストレスと育児疲れが重なり、重症化してしまったようです。メンタル不調にもいくつか種類があり、ポピュラーな疾患は鬱病ですが、自律神経失調症や強迫性障害、パニック障害などが挙げられます。また最近では新型うつ病などもよく話題になります。
精神の病ということで軽視されがちですが、鬱病を放置すると自殺念慮が生じることもあり、最悪の場合死に至る病となる場合もあるため注意が必要です。「精神病」というと何かしらその人固有の思考の問題と思われがちですが、セラトニンという神経伝達物質の不足により生じる場合があります。これらは糖尿病と同様、ホルモン生成不足によるものであり、立派な内臓疾患であるといえます。
◆会社が対応しなくてはいけないこと
政府は2025年3月14日、従業員の精神状態を検査する「ストレスチェック」を、全ての企業に義務付けることとした労働安全衛生法の改正案を閣議決定しました。ストレスチェック制度は2015年に同法により施行されたのですが、従業員数50人以上の企業のみ義務化されておりました(従業員数50人未満の企業は努力義務)。いわば「心の健康診断」ともいえるストレスチェック制度ですが、昨今長時間労働や職場のハラスメント等が原因で鬱病に羅漢する人が急増しております。また精神障害による労災認定基準が明確化して以降、職場環境を原因とした鬱病等の労災認定数も急増しております。従来は50人未満の中小企業において、プライバシー配慮などの対応等から義務化が難しいため、努力義務とされておりましたが、法改正により義務化される見込みです。
精神疾患と大きく関連性があるのが、職場のハラスメントです。職場のハラスメントにはパワハラ、セクハラ、妊娠出産に関するハラスメントといったものが挙げられます。ハラスメントに関する裁判判例を読んでいると、多くの場合がメンタル不調を生じさせているケースが見受けられます。まぁこれは当たり前といえば、その通りです。なぜなら、ハラスメントで会社を相手に損害賠償を求める訴訟をする場合、具体的な損害が必要となります。「激しく叱責されたから、(上司が気に入らないから)訴える!」といっても、それだけでは裁判にはなりませんからね。(裁判を起こすには「訴えの利益」が必要)多くの場合はハラスメントとメンタル不調はセットになっている事例が多いです。昨今話題となっている某マスコミによるセクハラでも、被害者の女性は重度のメンタル不調により入院したことが報道されております。
◆ストレスチェックとハラスメント対策をセットに
以上のことを踏まえて考えますと、ストレスチェックとハラスメント対策は両輪で実施することが望ましいといえます。ストレスチェックについて現在はまだ50名未満の中小企業において法制化されておりませんが、本年3月に義務化に向けた閣議決定がされました。
ストレスチェックのやり方ですが、ストレスに関する質問票に従業員が回答し、それを集計、分析することで、職場のストレス要員、心身のストレス反応、周囲のサポート等を調べることを目的としたものとなっております。実施にあたっては、衛生委員会等で話し合い方針を明確化し、社内規定として明文化の上、実施します。なお衛生委員会は50名以上の事業所に設置が義務化されているものなので、小規模事業所では無い場合が多いです。その場合であっても、関係労働者の意見を聴くための機会を設けることが望ましいですが、難しい場合は社長及び役員、労働者代表の簡易的な会議でもよいと考えます。
ストレスチェックについては、厚生労働省ポータルサイト「こころの耳」をご覧いただきますと、詳細や関連資料、動画等がダウンロードできますので、ご覧いただければと存じます。(https://kokoro.mhlw.go.jp/)
ハラスメント対策については、2020年6月に改正労働施策推進法により職場での取組が義務化されております(中小企業は2022年4月より義務化されました)。職場におけるパワハラ防止の為の望ましい取組として挙げられるのは、方針の制定と明確化、相談窓口の設置、パワハラが起きた場合の迅速かつ適切な対応等が挙げられます。
パワハラ対策については、厚生労働省ポータルサイト「あかるい職場応援団」に関連動画や資料等がダウンロードできますので、社内研修などでご活用いただければと存じます。(https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/)