法令順守の重要性
2025年7月2日
『物流なんでも相談所』
岩﨑仁志
日本郵便の運送業許可取り消しを契機に物流業で法令順守の重要性が再認識されるようになりました。日本郵便の許可取り消し処分はこれまで物流業界にはびこっていた仕事優先で法令順守は二の次というやり方が見直され以降、コンプライアンスの重要性が改めて認識されるようになってきました.しかし、その重要性と比例するように、業界特有のコンプライアンス課題も多く存在します。その背景には、働き方改革関連法や環境規制の強化による法規制の厳格化、安全運転や環境保護に対する社会的要請の増大があります。
また、労働環境改善による人材確保の必要性や、ITシステム導入によるコンプライアンス管理の効率化も要因となっています。国土交通省の調査では、2023年度の貨物自動車運送事業者の法令違反件数が前年比10%増加しており、業界全体でのコンプライアンス強化が急務です。運送業界でのコンプライアンス違反が多く、深刻な課題とされています。近年、これらの課題への対応が急務となっており、企業の持続可能性に直結する問題として認識されています。運送業界のコンプライアンスで大切なポイントとして、①運賃・料金を適切に設定する、②労働時間の管理を徹底する、③安全管理を徹底する、④従業員にコンプライアンス教育をする、⑤下請法を遵守するなどが考えられます。コンプライアンス違反は、企業経営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。コンプライアンス違反が発生した場合、企業はさまざまな面で責任を負う可能性があります。①民事責任;損害賠償金の支払いや契約不履行による賠償、企業イメージ回復のための広告費用など、財務面での負担が生じます。②刑事責任;営業秘密の不正取得や労働法違反などの行為は、刑事罰の対象となる可能性があります。従業員の権利侵害も重大な法的問題となります。③行政責任;法令違反に対しては、行政機関からの是正命令や営業停止などの処分を受ける可能性があります。④社会的責任;違反事実の公表やSNSでの情報拡散により、企業の評判が著しく低下する恐れがあります。「ブラック企業」のレッテルを貼られると、人材確保が困難になるなど、長期的な経営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
これらの責任は相互に関連し、企業の存続自体を脅かす可能性があるため、コンプライアンスの徹底が極めて重要です。2024年問題を背景として働き方改革関連法が大きく影響しており、その全体像を今一度認識することが重要です。この法律は、労働環境の改善を目指し、主に3つの重要な変更を含んでいます。まず、労働時間に上限が設けられました。原則として月45時間、年360時間までとし、特別な場合でも年720時間を超えないよう定められています。次に、有給休暇の取得を促進する規定が導入されました。年10日以上の有給休暇が付与される従業員に対し、企業は最低5日の取得を確実にさせる必要があります。最後に、同一労働同一賃金の原則が定められ、正規・非正規雇用者間の不当な待遇差が禁止されました。
運送業界において、2024年問題は特に以下の点で大きな課題となっています。①長時間労働の是正;運送業界では、荷主の要望に応じた柔軟な配送や長距離輸送などにより、長時間労働が常態化している場合が多くあります。2024年からは、これらの慣行を抜本的に見直す必要があります。②人手不足への対応;労働時間の制限により、現在の配送量を維持するためには、より多くのドライバーが必要となっていますが、すでに深刻な人手不足に悩む業界にとって、これは大きな課題です。③運賃・料金への影響;労働時間の制限や人員増加に伴うコスト増加は、運賃・料金の見直しにつながる可能性があります。荷主との交渉や新たな料金体系の構築が必要となるでしょう。④生産性向上の必要性;限られた労働時間内で効率的に業務を遂行するため、ITシステムの導入や業務プロセスの最適化など、生産性向上への取り組みが不可欠となります。
2024年問題は、単に法令遵守のためだけではありません。従業員の健康と安全を確保し、持続可能な事業運営を実現するために極めて重要です。さらに、働きやすい環境を整備することで、深刻な人手不足の解消にもつながる可能性があります。運送業の経営にとって、2024年問題への対応を含むコンプライアンス対策は、単なる法令遵守以上の意味を持っています。これは各社の業務効率を高め、企業価値を向上させることになるのです。労働時間管理の徹底、安全管理体制の強化、ITツールの積極的活用など、具体的な改善策を実践しましょう。また、荷主企業との協力関係構築や、各種公的支援制度の活用も重要です。困難に思えるかもしれませんが、一歩ずつ着実に進めることで、成果は現れます。より安全で効率的、そして従業員にとっても働きがいのある運送業を作り上げていきましょう。