労務管理ヴィッセンシャフト

熱中症対策の義務化について 本年6月より改正労働安全衛生規則施行

2025年7月9日

労務管理ヴィッセンシャフト vol.36
野崎 律博

 

◆職場の熱中症対策について
暑い日が続く今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?6月以降、本格的な夏日が続くようになりました。気象庁の季節予報によれば、今年の夏の気温は例年に比べて全国的に高くなる予想となっております。ここ近年において、職場における熱中症を原因とした私傷病者は年々増加傾向にあります。オフィスの中で働く人はエアコンもあり、熱中症対策がなされているといえますが、業種によっては対策がしづらい現場もあります。厚生労働省「令和6年職場における熱中症による死傷災害の発生状況」によれば、建設業、製造業に次いで運送業が第三位となっております。

熱中症とは高温多湿な環境下において、体内の水分と塩分のバランスが崩れることによる体調不良、また発汗などによる体内の調整機能が破綻することなどによって生じる体調不良の症状を指します。具体的な症状としては、軽度な症状にはめまいや立ち眩み、吐き気、倦怠感等があり、重症な症状としては意識障害、けいれん、高体温などの症状が起こり、場合によっては命にかかわることもあります。

近年において、職場における熱中症の死傷病者は増加傾向にあります。熱中症が増加している背景には、地球温暖化やそれらに伴う環境変化が原因なのですが、事業者としてもこれら状況への対策が求められます。

熱中症死傷者の増加もあって、これらへの事業者の対応として、労働安全衛生規則が改正されました。改正内容としては、熱中症による健康障害の疑いがある者の早期発見や、重症化を防ぐために必要な措置を講じること等が義務化されました。

◆WBGT28度以上または気温31度以上の環境下で4時間を超える作業が対象
労働安全衛生法は事業主に対し、従業員が職場で健康に働けるよう義務を課す法律です。従業員が危険な状況下で働いたり、健康を害したりするのを防ぐために、事業者が講じるべき措置のことを安全衛生確保措置といいます。そのために職場の安全と衛生を確保するための役割を担うスタッフを配置することが、作業内容や現場の規模等によってそれぞれ定められています。安全管理者や衛生管理者、安全衛生推進者、作業主任者などがそれらにあたります。

事業主が講ずべき安全衛生確保措置などについて、より具体的なことが労働安全衛生規則(以下「安衛規則」と略します)に定められております。安衛規則は大きく4つの構成となっております。一つは通則、二つ目は安全基準、三つ目は衛生基準、四つ目として特定の業種や作業に対する、より詳細な安全衛生基準が定められております。今回の熱中症対策に関する改正は、四つ目の改正にあたります。

従来から安衛法では高温等による健康障害を防止するため、事業者が必要な措置を講ずることが定められておりました。今回の改正において、これまでの取り組みをさらに強化すべく、熱中症の重篤化を防止するための必要な措置を講ずることが義務化されました。具体的には①報告耐性の整備②実施手順の作成③「①②」について関係者への周知を行うことが求められることとなりました。またこれら義務への違反があった場合、行為者及び法人に対し罰則が科せられることも定められました。

安衛法で安全衛生確保措置を講じる対象とされているのは、当該事業所で作業をする従業員はもちろんのこと、直接的雇用契約を結んでいない者が対象となる可能性もあります。条文上は「作業に従事する者」とされており、当該事業所で雇用している従業員のみならず、請負等で働く関係者等も対象になる場合もあるため注意が必要です。

作業場所についてですが、条文上は「暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症による健康障害を生じる恐れのある作業」が対象となっております。(条文にはそこまで書いていないのですが)厚労省によれば、①WBGT28度以上又は気温31度以上の環境下で②連続1時間以上又は1日4時間を超える作業が見込まれるものが該当いたします。このWBGTというのは聞きなれない言葉だと思いますが、一言で申しますと暑熱環境によるストレスの評価を行う暑さの指数をいいます。具体的なことについては長くなりますので割愛いたしますが、厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」に例が載っておりますので、ご覧になっていただければと思います。

https://www.mhlw.go.jp/content/001476821.pdf

今回の安衛規則改正のポイントは、3つの点にあります。一つ目は、まず体調不良者を見つけることです。熱中症が疑われる症状例としては、めまいや頭痛、吐き気、倦怠感、筋肉硬直等が挙げられます。上司や衛生管理者等は、これら症状の疑いが見受けられる方や呼びかけに応じない等、疑いがある方がいないか注意する必要があります。それら疑いのある方を発見するためにも、報告のための体制整備や関係作業者への周知を行う必要があります。また報告を受けるだけでなく、職場巡視やバディ制の採用、ウェアラブルデバイスの活用など、把握のための積極的な対応に努めることも重要です。

二つ目のポイントは、それら症状がある方を見つけたとき、適切な判断を行うことです。意識の有無等は重要な要素ですが、意識があったとしても反応がいつもと違うなどの場合、異常有りとして取り扱うことが適切です。また判断に迷う場合は、医療機関などの専門機関に相談し、判断を仰ぐことも必要といえます。症状によっては医療機関への搬送も考えられますが、必要に応じて救急車を呼ぶなどの適切な対応が求められることもあります。これらは素人では判断しがたい場合もありますので、救急安心センター事業(#7119)を活用することをお勧めします。#7119というのは電話番号を指しますが、すぐに病院にいったほうがよいか?救急車を呼んだほうがよいか等のアドバイスを専門家から受けられるホットラインです。

三つ目のポイントは、適切な対処を行うことです。救急車を呼んだり病院へ搬送する等の行為がそれらにあたりますが、それ以外にも救急車が来るまでの間に、当該従業員を寝かしたり、身体を冷やす等の応急処置を行うことも含まれます。

7月に入りいよいよ本格的な夏を迎えることとなりますが、職場のみならず私生活においても熱中症のリスクは増えております。皆様におかれましては、それら対策を意識していただき、健康障害など生じないよう心がけてください。

厚生労働省「2024 年(令和6年) 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」より引用

著者プロフィール

野崎律博

主任研究員

公的資格など
特定社会保険労務士
運行管理者試験(貨物)


物流事業に強い社会保険労務士です。労務管理、就業規則、賃金規定等各種規定の制定、助成金活用、職場のハラスメント対策、その他労務コンサルタントが専門です。労務のお悩み相談窓口としてご活用下さい。健保組合20年経験を生かした社会保険の活用アドバイスや健保組合加入手続きも行っております。社会保険料等にお悩みの場合もご相談下さい。

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