旅するお荷物

AIがもたらす創造的破壊(最終回)

2025年7月23日

『旅するお荷物 vol.10』
大原 欽也

(その1)はこちら
(その2)はこちら

【結局、AIとは?】
結局、AIとは以下のようなものです。

・今の流行は、ニューラルネットワークを基本とした仕組み
・動物の脳の機能(ニューロンとシナプスのネットワーク)を模したもの
・基本はシンプル
・汎用性が高い
・学習が必要(学習後は専門性が高まる)
・なぜその結果になったのか理解し得ない(そもそも論理がない)
・人間に困難なことはAIには簡単、人間に簡単なことはAIには困難
・したがって、知的水準の高い業務への適用に向いている

以上を踏まえたうえで、物流へのAIの導入ですが、難しいことだと思われたかもしれません。断言しますが、そんなことはありません。最後に物流AIのアイデアを紹介します。

【物流AI】
物流でAIというと、大手ネット通販の労務管理や顧客管理などが思い浮かびます。皆さんは、業務改善というとコストダウンであり、コストダウンの一番は人件費削減であり、人件費削減には作業の自動化が必要で、自動化といえばAI導入、となったところで・・・それはAIの苦手分野だったことを思い起こしたことでしょう。しかし、もう一つ思い起こしてください、コストダウンの要諦は生産性向上である、ということを。

以下に、物流の生産性向上のためのAI導入のアイデアを、今度も具体的に示します。皆さんの抱える現場の改善の参考になれば幸いです。

●倉庫管理(WMI)
WMIの機能は多岐にわたりますが、オペレーションを考えると、最も重要なのは入出庫であることが多いです。なので、ここでは入出庫作業へのAI導入について考えます。

入荷品にバーコードが付いていたらよかったのに、と思ったことはありませんか。どれだけ作業が楽になることか。付いていたりいなかったりしても、それはそれでややこしい。いっそのこと入荷した時点でバーコードを添付することにしたケースも見たことがありますが、これも面倒な話です(添付作業のミスもある)。

そこでAIを導入です。つまり、バーコードのついていない荷物はあっても、入荷伝票のない荷物はないわけで、そこで、バーコードリーダーがバーコードを読み取るように、AI端末(スマートフォン等)が伝票を読み取ればいいのです。文字認識の精度という問題がありそうですが、そこはAIの能力の発揮しどころで、伝票内の複数の情報と過去の履歴の情報を使えば、格段に精度は上がると思います。

むしろ問題は、過去の履歴の情報の膨大な学習をどうするかです。つまり、WMI内の荷物情報と伝票画像の紐づけをどうやるのかということです。伝票画像はAI端末で写していけばいいだけですが、肝心の紐づけはやはり人間の手作業・・・ではなく、これもAIにやらせる。紐づけ前なので文字認識の精度は低くても、そこからWMI内の荷物情報のうち最も整合性の高いものを特定すればいいので、この時点でほとんどエラーはなくなるのではないでしょうか。

このAIを使った紐づけ方法は、新規の荷物に応用ができます。新規の伝票を写しても、”わかりません”という答えが返ってくるだけです。それでも、オペレーターが端末に荷物情報を(できれば音声で)入力すれば、最初の紐づけがなされます。新規品のルーチンワークとして繰返していけば、”わかりません”が、”25%しかわかりません”になり、”75%わかりました”になり、数日のうちに文句をいわないようになるでしょう。

●庫内業務(フォークリフト)
人手不足の中にありながら、自動フォークリフトの普及はあまり進んでいないようです。海外製ではAI制御のものもあるのですが、それでも目立った進展はないようです。

私は、その原因はモラベックのパラドックスだと考えます。自動フォークリフトは、棚入れも、棚出しも、もちろん走行も問題なくできます。それも人間以上に高い精度で。高い精度でできる分、融通がきかないかもしれません。そして、融通をきかせなくてはならない局面があって、それは最初と最後、つまり荷卸しと積込みです。融通というのは難しいもので精度やガタとは違います。精度やガタはある範囲で変化してしまうのを見過ごすしかないことですが、融通はある範囲の中で必要な精度に自分で制御することだからです。精度はAIで対処できますが、融通はさすがに難しい。かくして、荷卸し/積込みだけが難しいために自動フォークリフトの導入ができなくなる。

であれば、答えは簡単で、荷卸し/積込みだけオペレーターに任せればいい。操作は遠隔でもいいと思います。フォークリフトの稼働時間の中で、荷卸し/積込みは10%もないのではないでしょうか(局面で変わるので思い付きの数字です)。仮に10%として、フォークマンの業務が90%改善されるわけです。AIにもできないことはあるのだから、無理難題を押し付けるのではなく、妥協点を探るのも必要です。

【まとめ】
上の2例以外に、自動倉庫活用、ロケーション最適化、積み付け改善、配送網見直し、バニングプラン自動化、等々、AIの応用は様々考えられます。上記ン例が参考になればと願います。

すでにシステムも様々発売されていて、活用されている方も多いと思います。ですが、どこかに不満もあって、余計な機能や不足な機能だったり、システムに業務をあわせこまざるをえなかったりします。

一つは、パッケージソフトの宿命で、汎用性を持たせカバー領域を広げるので、当然、個別対応ではギャップが生じるのです。この点は、AIにある程度は期待できるかもしれません。元々汎用性を持っているところへ独自の情報で学習することで専門性を付与できるからです。ある程度のレベルかも知れませんが。

もう一つ、システム導入は、ユーザーとベンダーの齟齬が生じがちです。社内にシステム開発部門がある場合でも、現場との意思疎通に苦労することもあるようです。互いの理解がなければ良いシステムは構築できません。ユーザーは、この程度の作業ならシステムがやってくれるものだと思い込んで、あとで落胆したりします。ベンダーも、意地でも自動化しようとした挙句、融通の利かないシステムを作り上げたりします。この点もAIは改善の可能性を秘めています。

但し、いずれもユーザーとベンダーの連携は必須です。ポイントは、人間とシステムの得手不得手は逆だということの理解だと思います。モラベックのパラドックスです。

世界的に見て、日本のオペレーターは優秀です。何でもかんでも無理矢理省人化するのは、人間という貴重なリソースを無駄にすることになります。人間とシステムをうまくかみ合わせることで生産性向上につながってくはずです。

【P.S.】
コンピューターは論理の塊で、一文字のタイプミスでもプログラムは動作しません。それがいつの頃からか、論理性からほんの少し外れるようなそぶりを見せた感じがしていました。そしてニューラルネットワークに至って、論理性とは違うような動作をします。なぜそうなるのか解らないのだから。そして、なぜそうなのが解らない大本が自分の頭の中だったのです。

「なんでそうなるんだ?」、などと部下にいったことがありますよね。大目に見ましょう。解らないのだから。部下はともかく、AIは期待できそうです。

メルマガは一方向の情報になりがちです。疑問やコメント等ありましたら、返信いただけると幸いです。


【出典元】
・フィリップ・アギヨン,他:創造的破壊の力
・名和高司:シュンペーター
・涌井良幸,他:Excelでわかるディープラーニング超入門
・清水亮:教養としての生成AI
・田中秀弥,他:画像生成AIがよくわかる本
・坂本真樹:坂本真樹先生が教える 人工知能がほぼほぼわかる本
・前野隆司:AIが人類を支配する日
・野村総合研究所:日本の労働の49%が人工知能やロボット等で代替可能に
・ロナルド・イングルハート:文化的進化論
・アリゾナ州最高裁判所(https://www.azcourts.gov/
・モラベックのパラドックス(Moravec’s paradox)とは?(ITmedia Inc.)
・小林雅一:ChatGPTが証明した「モラベックのパラドックス」とは?
(2023.07.08, ダイヤモンド・オンライン)
・Wikipedia:モラベックのパラドックス
・Dreamia(https://dreamina.capcut.com/ai-tool/home)
・チャットGPT(https://chatopenai.jp/

著者プロフィール

大原欽也

主任研究員

職歴
メーカー:研究開発、生産管理、生産改善、原材料調達
物流:工場出荷管理、物流センター管理、SCM開発、コンサルティング


キャリアのスタートはモノづくりでした。調達から製造、出荷まで、様々な角度から関わってきましたが、自身では改善屋だと位置づけています。その後、物流の仕事に移り、出荷、輸配送、倉庫管理、サプライチェーン等の管理や改善を行ってきました。統計的管理や生産管理、会計管理等の手法を物流に適用して、オペレーション改善、マテハン制作、システム開発、SCM開発等で、改善屋としての仕事をしてこれたと思っています。

得意分野

  • 生産管理
  • 工場出荷管理
  • 物流センター管理
  • SCM開発
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