物流よろず相談所

改正物流2法への対応

2025年7月30日

『物流なんでも相談所』
岩﨑仁志


物流は、国民生活や経済活動、地方創生を支える社会に不可欠な重要インフラです。2024年度物流業の総市場規模は24.5兆円、その後もEC等の需要増で成長が期待される一方で、輸送の現場を担うドライバー不足は解決の糸口もつかめていない状況です。トラックドライバーの有効求人倍率は3.39倍、全産業平均を大きく上回る高水準で推移する採用難易度の高い物流業界に若い力を呼び込もうと2024年4月より大幅な働き方改革もスタート。トラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用され、休日や休憩の取り方にも細かな規制が加わりました。荷主の都合や要望通りの低運賃・多頻度に加え、無料のサービス提供も当たり前だった時代は色々な意味で現代の企業経営にはそぐわないものになってしまったと言えるでしょう。

人手不足を補う抜本的な対策を何も講じなければ2030年にはトラックドライバーが36%不足、輸送コストも34%上昇するとされ、経済や国民生活にとっても深刻な影響が及ぶことになります。これら「物流の2024年問題」から派生する「2025年、2030年問題」は全産業共通とも言える喫緊の課題であると同時に、年々深刻化していく構造的な問題でもあるため、継続して対応していく必要があります。 物流が大きな変革を迫られている今だからこそ、運送事業や倉庫事業等を担う物流事業者のみならず、着荷主を含む荷主企業や消費者も一緒になって、それぞれの立場で解決すべき役割を認識し、持続可能な物流の実現につなげていくことが重要でしょう。

また国もこのような観点から、「持続可能な物流の実現に向けた検討会」、「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」を設置、また2023年6月には「物流革新に向けた政策パッケージ」が取りまとめられ、①物流の効率化、②商慣行の見直し、③荷主・消費者の行動変容を柱とする抜本的・総合的な対策を示してきました。その後「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事 業法の一部を改正する法律」が成立、「荷主企業・物流事業者に対する物流効率化に関する努力義務の創設や物流産業における多重下請構造の是正に向けた規制的措置」が盛り込まれ、法施行となりました。このうち、貨物自動車運送事業法においては、トラック事業における多重下請構造の是正を図るため、実運送体制管理簿の作成、契約内容の書面交付などを盛り込んだ法改正も行われました。改正法による荷主・物流事業者等に対する規制的措置を実効性のあるものとし、物流事業者、荷主企業・消費者、経済社会が「三方良し」となる社会を実現するためには、これらの具体的な内容の理解促進と、スピード感ある物流現場での具体的な対応が必要です。

現在国内物流のほとんどはトラック輸送によって支えられています。日本経済をけん引し成長させていくためにもトラックによる国内物流をこの先も途絶えることなくスムーズに持続させていかねばなりません。トラック輸送を現場で支えるトラックドライバーの確保には、他産業並みの適正な労働時間と賃金水準の引上げを目指す働き方改革により、物流業を魅力ある職業として位置づけていくことが必要なのです。

恐れていた物流の停滞を目前に、国の動きもまた加速していきます。その後2024年の通常国会において、荷主や物流事業者に荷待ち・荷役等時間の削減や積載効率の向上等の取組を義務付ける措置や、トラック事業における多重下請構造の是正を図るための措置(実運送体制管理簿の作成、契約内容 の書面交付等)などを盛り込んだ法改正が行われました。改正は「流通業務総合効率化法」と「貨物自動車運送事業法」の2つ。さらに2025年4月には「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」=流通業務総合効率化法、(今回の改正で法律の名称が「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」から「物資の流通の効率化に関する法律」=物流効率化法に変更)と「貨物自動車運送事業法」が改正され同年5月15日公布されました。改正のポイントは、3つの規制的措置が追加されたことです。(1)荷主・物流事業者に対する規制的措置(流通業務総合効率化法(物流効率化法))、(2)トラック事業者の取引に対する規制的措置(貨物自動車運送事業法)、(3)軽トラック事業者に対する規制的措置(貨物自動車運送事業法)

全ての荷主と物流事業者に、努力義務も課せられました。①荷主(発荷主、着荷主)、②物流事業者(トラック、鉄道、港湾運送、航空運送、倉庫)に対し、物流効率化のために取り組むべき措置について努力義務を課し、当該措置について国が判断基準を策定します。この判断基準は、省令で定められます。 元請トラック事業者、利用運送事業者には荷主に協力する努力義務が課されます。荷主と物流事業者の取組状況について、国が当該判断基準に基づき指導・助言、調査・公表を実施します。荷主と物流事業者のうち一定規模以上の事業者を「特定事業者」とし、中長期計画の作成や定期報告等が義務付けとなります。トラック事業者は、保有車両台数150台以上の事業者が対象。努力義務に係る措置の実施状況が不十分な場合、国が勧告・命令を実施します。特定事業者のうち荷主には「物流統括管理者の選任」が義務付けとなりました。

改正法の詳細を知り、自社のたいおうすべきことを対応していただきたいと思います。

著者プロフィール

岩﨑 仁志

代表主席研究員

職歴
 外資系マーケティング企画・コンサルティングセールス


物流・運輸業界に留まらず、製造業や流通業物流部門などを対象にコンサルティングを行ってきました。国内外の物流改善や次世代経営者を育成する一方で、現場教育にも力を発揮し、マーケティング、3PL分野での教育では第一人者とのお声をいただいています。ドライバー教育、幹部育成の他、物流企業経営強化支援として、人事・労務制度改定に携わった経験から、物流経営全般についてのご相談が可能です。

無料診断、お問い合わせフォームへ