労務管理ヴィッセンシャフト

有期労働者の契約更新に関するトラブル

2025年8月13日

労務管理ヴィッセンシャフト vol.37
野崎 律博


1.契約社員には様々な種類がある

いよいよ8月となり、地域によっては気温40度を超える日もありますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?運送事業は相変わらず人手不足が顕在化しており、外国人技能実習生の採用を検討されている会社もあるかと思われます。ドライバー採用にあたっては、正社員雇用も多いと思いますが、契約社員として採用されるケースもあります。契約社員にはいくつか種類がありますが、①有期契約社員②無期契約社員③パートタイム契約社員の三つに大きく分けることができます。有期雇用というのは、その名のとおり期間の定めのある雇用契約のことであり、契約社員の多くの場合がこの形で行われます。例えば半年や1年といった期間を定める契約のことです。労働契約期間には労基法第14条の定めにより、3年の上限が設けられております。例外として、高度の専門的知識等を有する労働者や、満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約の上限は5年となっております。

②の無期雇用契約というのは、その名のとおり期限の定めのない契約社員となります。「えっ?それって正社員とどう違うの?」と思われるかもしれません。たしかに正社員は期限の定めのない契約であり、退職事由が生じない限りにおいて、定年年齢までは会社との雇用関係が継続します。正社員との違いですが、賃金その他労働条件について、有期契約社員相当となります。例えば賃金体系一つをとっても、正社員は月給制が基本とされており、その他諸手当や賞与の支給、退職時には退職金支給などがされる場合が多いですが、無期契約社員は時給(あるいは日給)制やその他手当や賞与、退職金はなしといったケースが多いです。(但し労働施策総合推進法の「同一労働同一賃金」施行以降は、業務内容や人材活用の仕組み如何によっては、労働条件が正社員と同じ場合もあります)。無期契約社員になるケースで一番多いのは、契約社員の無期転換が適用される場合です。契約社員の無期転換権というのは、2013年改正の労働契約法で決まったルールで、更新された有期契約期間が通算5年を超えて更新された場合、労働者側によって無期雇用に転換できる権利行使を言います。この無期転換は口頭で行っても法律上有効であり、かつ会社側は原則として断ることができません。このことで有期契約から無期契約に転換された労働者は数多く存在すると思います。

③のパートタイム労働者というのは、フルタイム以外で働く契約社員です。労基法により労働時間の上限(法定労働時間)は1日8時間、1週間40時間であり、正社員や契約社員の多くの方はこの時間で雇用契約をされています。これを下回る労働時間や日数で雇用契約を締結している人のことを、一般的にパートタイム労働者といいます。

2.有期労働契約の更新を巡るトラブル
それでは契約社員は契約期間が満了したとき、会社側の意思により契約満了(雇止め)をすることは可能でしょうか?実は契約社員を巡る地位確認訴訟で一番多いのは、雇止めを有効・無効とするかの事案です。筆者は社労士事務所をやっているのですが、これらご相談も非常に多いです。経営者の方によっては「契約社員だから、契約満了時に更新または雇止めすることは、容易にできるのでは?」と思われている方もいらっしゃいます。これが雇用契約ではなく一般の民事契約であれば、その通りだと思います。しかしながら労使関係の契約においては、労基法等で労働者保護の観点から、法的には弱者とみなされる様、労働者側に有利な法制度となっております。労務紛争でも雇止めを有効、無効とする判例がいくつか存在しますが、明確な結論は分かれることがあります。

一つ目は雇止めの効力を判断するにあたって、解雇に関する法理を類推すべきという判決です。つまり普通の社員の解雇と同様で、解雇権濫用法理を適用する考え方です。解雇権濫用法理とは、会社が労働者を解雇する際に、「客観的な合理性を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、(解雇が)無効となる」という法理です。これは労働契約法第16条に明文化されております。「客観的な合理性」とは、解雇が有効となるための要件の一つで、「誰が見ても納得できるような正当な理由」があることを指します。具体例を挙げますと、就業規則において明文化があり、かつそれに該当するケース等が考えられます。これら客観的要件を欠いているにも関わらず雇止めが行われた場合、使用者側の恣意的なものとみなされ、解雇要件を満たさないことになります。

「社会通念上相当」というのは、社会一般の常識や価値観に照らして妥当であるかどうかという意味です。具体的には、世に行われている解雇事案とくらべて過酷すぎないかとか、他の従業員とのバランスが取れているか、業界の慣習との比較など広い観点から判断されます。「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」この二つの要件を満たさないと解雇は有効とみなされません。よって雇止めを解雇と同様とする判例は、会社側にとっては極めて厳しい判断といえます。

ただし上記のような判断が必ずしも行われるとは限りません。雇止めが有効と判断された判例もあります。判断要素となるのは、契約内容や更新状況、雇止め理由などの総合的判断によるものです。例えば雇用契約書に明確に更新が無い旨記載されている場合や、更新回数に上限がある場合、同様の業務を行う労働者について、過去の雇止めの例がある事案が多い場合等が考えられます。この場合、原則通り契約期間の満了によって「当然に」契約関係が終了するものとみなされるような場合、雇止めの効力が有効とみなされた判例もあります。

いずれにせよ、上記は個別事案によって判断されることになるため、一概にはいえません。しかし現契約において雇止めが想定されるような場合は、少なくとも雇用契約時にその旨を明確に明記する等の対策は最低限行われる必要があるものと考えます。

※厚生労働省「有期労働契約の新しいルールができました 労働契約法改正のあらまし」16頁より引用

 

著者プロフィール

野崎律博

主任研究員

公的資格など
特定社会保険労務士
運行管理者試験(貨物)


物流事業に強い社会保険労務士です。労務管理、就業規則、賃金規定等各種規定の制定、助成金活用、職場のハラスメント対策、その他労務コンサルタントが専門です。労務のお悩み相談窓口としてご活用下さい。健保組合20年経験を生かした社会保険の活用アドバイスや健保組合加入手続きも行っております。社会保険料等にお悩みの場合もご相談下さい。

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