令和7年7月1日創設、新しい助成金コースについて
2025年9月10日
労務管理ヴィッセンシャフト vol.38
野崎 律博
◆年収の壁撤廃と新たなキャリアアップ助成金のコース新設
企業規模ごとに設定されている社会保険の加入要件について、令和17年までに段階的に緩和されます。令和6年10月より常時使用する従業員数が50人を超える場合、週所定労働時間が20時間以上であり、かつ月収88,000円以上(年収106万円以上)の一定要件を満たした従業員は、社会保険の加入義務が発生します(俗にいう「106万円の壁」です)。ちなみに社会保険というのは、厚生年金と健康保険の両方を指します。例えば皆様の会社で正社員または上記要件を満たしたアルバイトやパートを採用した場合、年金事務所に資格取得届を提出していると思います。社会保険は強制保険といわれており、要件を満たした従業員を採用した場合は、必ず加入手続きを行わなくてはなりません。もし行っていなかったらどうなるか?年金事務所の調査などで発覚した場合、遡って加入手続き&支払うべき保険料の支払いが求められます。
冒頭にのべました106万円の壁(月収88,000円)ですが、最低賃金1,016円以上の地域では、週20時間働くと要件を満たすことから、これら要件は数年以内に撤廃されることとなりました。そうするともう一つの壁である年収130万円の壁だけが残ります。130万円の壁というのは、社会保険の被扶養者に認定されるための要件です。年収でこれを超えた場合は、自ら社会保険に加入しなければなりません。
上記の様な方達を雇用する会社が、年収130万円程度で働く非正規従業員を念頭に置き、労働時間を延長して社会保険に加入した場合、当該従業員の手取り収入を減らさないようにするための助成金コースがこの度新設されました(令和7年7月1日創設)。それがキャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)」です。
この助成金は中小企業の中でも社会保険加入の影響が大きい小規模事業の負担を軽減するため、一定の要件を満たした小規模企業にはさらに高い助成金が支給されることになります。一般的に助成金は大企業、中小企業と2段階に分かれるのですが、本コースについては常時使用する従業員数30人以下の事業所を「小規模企業」とし、規模により高い助成金を受給することができます。
このような新コース創設となった背景には、年収130万円の壁を意識せずに働くことができる環境整備と、短時間従業員の社会保険加入による処遇改善、短時間従業員の労働時間延長による人材不足解消といった目的達成があります。
◆キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)の受給要件について
まず対象となる従業員の要件ですが、社会保険加入日時点で6カ月以上継続雇用されている従業員(パートタイマーやアルバイト)が対象となります。その6カ月以上の期間というのは、当然のことですが社会保険の加入要件を満たさなかった期間です。かつ社会保険加入日から過去2年以内にその会社で社会保険に加入していなかった方が対象となります。そして先程の被扶養者の要件でいうところの「年収130万円」以下の方ですが、通常であれば、個人として国民健康保険や国民年金に加入しなくてはなりません。
つまり「被扶養者にもなれない」「被用者保険(会社で加入する社会保険)にも入れない」ゆえに、国民年金や国民健康保険に入ることを余儀なくされております。でもこういう方も、所定労働時間を「ちょい足し」すれば、被用者保険に入れることになります。もちろん「本人が望むか?望まないか?」という問題は残りますが、一般的にいえば、被用者保険に加入したほうが、福利厚生が充実する可能性が高まります。ことに厚生年金は、国民年金の上乗せ給付であり、加入していた期間が長い程将来の年金額は増額されることになります。
しかしながらこれは、会社にとっては「社会保険料の総額が増えること」にもなります。なぜなら被用者保険料は労使折半のため、会社の負担は増えるからです。まさにその負担を軽減し取組を促進することこそ、本助成金の目的です。
お話を戻しますが、本助成金の要件として、短時間労働者の所定労働時間を延長することにありますが、もう一つの要件は賃金の増額です。賃金の増額率については週所定労働時間の延長時間により要件が設定されております。例えば当該短時間従業員の週所定労働時間を2時間以上3時間未満延長した場合、賃上げ率を15%以上としたとき、受給要件の一つを満たしたことになります。この延長時間は長い程、賃上げ率の要件は段階的に引き下げられます。(図表1)ちなみにこの賃上げは、複数年をかけての取組事例も対象となる場合がありますので、詳細は管轄労働局にお問い合わせください。
◆支給申請の手続きについて
雇用行政の助成金全体にいえることですが、取組にあたっては事前にキャリアアップ計画届を策定し、管轄労働局に提出する必要があります。提出期限は当該従業員の社会保険加入日の前日までです。支給申請が可能となるのは、要件該当の従業員が加入後6カ月後から可能となります。助成額は図表①の通りです。本助成金は初回の受給後、2年目にさらに所定労働時間の延長または賃上げを行うことで、2回目の請求を行うこともできます。
(図表① 助成額)

※出典元:厚生労働省「キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)
のご案内(リーフレット)」より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/001510960.pdf