労務管理ヴィッセンシャフト

被用者保険と国民健康保険はどこが違う?社会保険料の視点からいえること

2026年2月10日

労務管理ヴィッセンシャフト vol.43
野崎 律博

1.国民健康保険と被用者保険について

今年もはや2月に入りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。歳を取るたびに、月日の経つのが早く感じられる今日この頃です。

最近のニュースで、一部の国会議員が法人役員として被用者保険に加入していたことで、国民健康保険に未加入であった事案が報道されました。この事案について、何が問題なのか分かりにくい方もいらっしゃると思います。週刊誌等では「国保保険料の支払い逃れ」や「脱法行為」等と報道されておりますが、何が問題なのでしょうか?これは社会保険や国民皆保険の仕組みを理解する上でも良い題材なので、(政治家としての品格云々は別として)これを機会にご理解いただければと思います。

解説に入る前に、まず社会保険の原則からお話いたします。

最初にまず被用者保険と国民健康保険について解説いたします。日本は国民皆保険という制度があり、日本に在住する人は、必ず何らかの社会保険制度(健康保険や年金等)に加入する必要があります。その中でも多くの人が加入するのが、協会けんぽや健保組合などの健康保険制度です。会社と雇用契約しているサラリーマンや代表者、取締役等の役員さんが入る社会保険のことを、被用者保険といいます。逆に適用事業以外の個人事業で従業員5人未満の場合は、被用者保険の強制適用除外業種のため、国民健康保険に入ることになります。

聞きなれない言葉も多いのでわかりにくいと思いますが、簡単に申しますと、会社(法人)に雇われている人などサラリーマンが入るのが被用者保険、個人事業主等の方が入る保険が国民健康保険です。厳密に申しますと、公務員が加入する共済組合や世帯主に扶養されている方の被扶養者という制度等があるのですが、大きく分けますと被用者保険と国民健康保険の二種類のいずれかに加入することになります。

それでは国会議員や地方議員はいかなる社会保険の適用となるのでしょうか?結論から申しますと、議員さんは個人事業主にあたる方が多いため、国民健康保険に入るのが一般的です。ただし議員さんの一部の中には、会社役員を兼ねている方もいらっしゃいますので、その場合は被用者保険に入る場合もございます。今回話題となった市議会議員さんたちは、会社役員を兼ねていたため、被用者保険に入っておりました。

「え?それなら問題ないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに上記の条件のみでは、必ずしも不適切であるとはいえず、何が問題なのか分かりません。ではなぜ問題になったかというと、「保険料が安い方を逆選択した」疑惑があるからです。

2.被用者保険と国民健康保険の保険料の仕組みについて

「会社役員を兼ねているのならば、法令通りの適用なのだから、批判される必要はないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ここだけに焦点を当てると、その通りといえます。ではなぜこの事案がグレーゾーンとか国保逃れ等と批判されているのでしょうか?答えは国民健康保険と被用者保険の保険料算定の仕組みの違いにあります。被用者保険は保険料算定の基礎となる月々の給与(役員は役員報酬)が低いと、これに併せて保険料は安くなります。一方国民健康保険料は、前年の所得を基準に、世帯単位で計算されます。また市区町村が運営しているため、住んでいる地域(自治体)によって料率や保険料額が異なります。 当該議員さんの問題点として指摘されているのは、この仕組みを利用し保険料が安くなる被用者保険を「逆選択した」疑いがあるからです。

「どちらも所得ベースなので同じでは?」と思われるかもしれませんが、被用者保険の場合、あくまで役員報酬のみがベースとなります。また被用者保険は労使折半(会社と本人が半分ずつ)なので、保険料的には安くなるケースが多いです。

一方国民健康保険は、全ての所得(議員報酬+役員報酬+その他)がベースとなります。また個人単位の加入のため、労使折半負担はありません。この点だけを見ても、国保より被用者保険の保険料が安くなりやすいことがお分かりいただけると思います。

さらに申しますと、会社役員は労基法の労働者にあたらないため、仮に役員報酬が最低賃金を下回っていたとしても、問題となることはございません。極論を申しますと、1カ月の役員報酬が数万円程度であったとしても、保険料月額表の一等級(一番低い等級)が適用されるだけであり、法令違反を問われることはありません。

また「え?でも私の知りあいにも会社役員がいるけど、被用者保険入っていないよ?」という方もいるかもしれません。これもわかりにくい仕組みなのでご説明いたしますが、会社役員であっても非常勤の場合、原則として被用者保険の適用にはなりません(ただし働き方が常勤である等の実態がある場合、加入扱いとなる場合もございます)。市議会議員さんのように公務がお忙しい方は、非常勤である場合が多いと推測されますので、この観点から見ても被用者保険の適用にならない可能性が高いといえます。

まとめますと①被用者保険はその会社の役員報酬のみが保険料計算ベースだが国保は全ての所得ベース②被用者保険料は労使折半払いだが、国保は全額本人払い③常勤役員であったかの真実性(非常勤役員は被用者保険の対象外・・・ただし例外あり)以上3点から鑑みるに、保険料が安くなり易い被用者保険を逆選択した可能性が疑われるという事案です。

著者プロフィール

野崎律博

主任研究員

公的資格など
特定社会保険労務士
運行管理者試験(貨物)


物流事業に強い社会保険労務士です。労務管理、就業規則、賃金規定等各種規定の制定、助成金活用、職場のハラスメント対策、その他労務コンサルタントが専門です。労務のお悩み相談窓口としてご活用下さい。健保組合20年経験を生かした社会保険の活用アドバイスや健保組合加入手続きも行っております。社会保険料等にお悩みの場合もご相談下さい。

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