旅するお荷物

統計とウソ

2026年3月18日

『旅するお荷物 vol.15』

大原 欽也


作家のマーク・トウェインがこんなことをいったそうです。「世の中には三つの嘘がある。 ひとつは嘘、次に大嘘、そして統計」まるで統計が嘘のラスボスであるかのような言い方ですが、ここまで悪態をつくからには、何かあったのではとかんぐりたくなります…投資に失敗したとか。実際、投資話によくあるエピソードのようではあります。

私としては、何も統計だけが悪いのでもなくて、統計に対する無知もあるのだろうと思うのです。たびたびクライシスを起こす金融の世界は、統計の見地から眺めると実に興味深いものがあり、複雑怪奇でもあります。その割に、市井の投資家の中では統計の知識は活用されていないようです。

金融業界だけでなく、数字あるところに統計あり、であって、私達の背後には常に統計が潜んでいます。気が付かないだけで。そして、私の見解をいえば、「統計は、嘘はつかないが騙される」、です。私達は知らず知らずに騙されているかもしれません(正確には、間違って認識してしまう、ということです)。

それはもちろん、物流の世界でも同じで、統計の知識不足は、例えば、在庫の過剰、逆に欠品の発生、管理の俗人化、オペレーションの平準化の阻害、等々となって顕在化します。いや、それに気付かない事の方が多いでしょう。最悪なのは、知識不足のままに統計ソフトを導入したりすることです。

物流では、金融のような危機的状況はまず起きないので、面白みに欠けるとはいえ、逆に適用はより易しいです。(もっとも、最近のコメ騒動は、金融危機的な状況を物流にもたらしました。とはいえ、そもそもの集計数ミスが後から見つかったりして、同列には語れないし、状況も金融よりずいぶんマイルドです。レバレッジをかけて買いに走った人がいたら別ですが。)

それでは、と、ここから統計学そのものについて話すのでは本コラムの趣旨に反するし、増々面白くなくなります。なので、今回は皆さんに、統計に対する自身のリテラシーを見積もってもらおうと思います。いくつかお題をだすので、ご自分の判断が妥当なのかを考えてみてください。

なお、以下提示するデータや解釈は、あくまで私が作り出したフィクションであるということをご確認させてください。また、最後に解説も載せたので、興味があればご覧ください。


A)人口動態
図表1は10年間の人口の推移です。急速に減少しているように見えますが、果たしてそうなのでしょうか。人口が半減する時期を予測してみてください。

図表1:人口推移(千人)


B)高校の学力
図表2は2つの高校A,Bのテストの成績です。A校の方が男子、女子とも高得点なのに、男女計ではB校の方が上です。なぜでしょうか?もちろんデータ集計にミスはありません。

図表2 高校のテストの成績

原因は、男女の学生の人数の違いにあります。A校は男子が女子より多く(100:30)、B校は逆に男子が少ない(30:100)。男女計の平均点は、男女それぞれの平均点からは求められず、まず男女計の点数合計を出さなければなりません。図表2のように示す場合の点数はどれも平均点ですが、平均の平均は正しくないということです。男女が同人数のときだけは、それでもかまいません。


C) 睡眠時間と死亡率
睡眠時間と死亡率の関係を図表3に示します。睡眠時間が7時間での死亡率が最も少ない1で、そこから睡眠時間が増えていくと共に、なぜか死亡率も増えていきます。ということはつまり、長く寝るほど死にやすい、ということでしょうか?睡眠時間が多い人は、減らさないと長生きできない、ということでしょうか?

図表3 睡眠時間と死亡率

私は、このデータの背景について何もわかっていませんが、とりあえず、早合点は禁物です。この図表が示しているのは、(7時間以上)長く寝るということと、死亡しやすいということの間に、関係があるというだけです。つまり、長く寝るから死にやすい、とはいえないのです。そうであれば、もしかして、こういうことも言えるかもしれません。「病弱の人はたくさん寝ないと体力を回復できないけれど、それでも短命になりやすい」仮に、これが正しいとすれば、睡眠時間を削るのは、人によっては逆効果で危険なことだといえます。グラフを素直に受け入れてはなりません。


D) 健康診断
あなたの上司に元気がありません。聞けば、体調がすぐれないので病院で検査してもらったところ、100人に1人の割合で感染する重病の検査結果が陽性(感染)だった、とのこと。正確な検査ではなく、検査ミス(つまり、感染していないのに陽性と判定、または、感染しているのに陰性と判定)がそれぞれ10%あるので、近々精密検査の予定だという。

そこで、あなたは提言する…霊験あらたかな祈祷師を知っています。次の検査の前までにお祓いをしていただくというのはいかがでしょうか。費用は二百万円と高額ですが、良心的な方なので、仮に結果が悪ければお代は返金するそうです。さて、あなたが百万円(つまり山分け)を手にする(つまり精密検査が陰性)の確率は何%でしょうか。
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百万円を手にする、ということは、祈祷の効果で病気治った、ということではなくて、本当はそもそも感染していなかったということです。それはつまり、最初の検査で、感染していないのに陽性と判定された、ということです。だからそれは検査ミスの確率なので、10%だ。…と思ったかもしれませんが、それは間違いです。

正解は 92%です。高確率で百万円が手に入るわけです。騙したようですが、上司も喜んでくれるでしょうから、みんなしあわせ、“三方よし”といえなくもありません。良心は痛むとしても。詳しくは解説を参照していただきたいのですが、実は、感染していないのに陽性の判定、の裏側、つまり、感染しているのに陽性の判定、も考慮すべきだったのです。何言っているのかわかりませんよね。詳しくは解説のほうを。皆さんのまわりにも、健康診断で陽性だったけれど、精密検査で大丈夫だった、という人がいるのではないですか。


【まとめ】
どうせサイコロやコイン投げのような問題なんだろう、ギャンブルは得意だから直観でわかるよ、などと考えていた方もおられたのではないでしょうか。やってみてわかったと思いますが、直観に反することも多いのです。

問題は、疑いもなく正しいと判断してしまうことも、実は誤りであったりすることです。ということは、正しいという確信の元に、間違った道に進んでしまうことがある、あるいは、あったということではないでしょうか。

だから、統計の知識も必要なのです。こと統計に関しては、知は力であり、転ばぬ先の杖であり、未来を照らす灯台なのです。

一応、言っておきますが、物流に関する限り、必要な知識はそれほど多くありません。なにも、数学の公式を理解する必要はなく、何を意味しているかがわかれば十分です。そうすれば統計ソフトを安全に使えます。加えて、数式をある程度理解すれば、統計ソフトも不必要になるかも知れません。使い始めると、知識が確実に増えていきます。増えた知識が、現状の仕組みに不満を漏らしだします。そこから、改善の苦悩が始まるのです。

個人的経験ですが、大手システムベンダーがある種の統計ソフトを売り込みに来た際のことです。様々な解析手法があるという説明をいただいた後で、こんな質問をしてみました。

「結局、実績に一番合った手法を選択すればよいのですか」
そしたら、「そのとおりです!」、とのお返事。開いた口が塞がらない、とはこのことか…。

メルマガは一方向の情報になりがちです。疑問やコメント等ありましたら、返信いただけると幸いです。次回、A)~D)の詳細を解説をいたします。(4月22日号予定)


【出典元】
・ダレル・ハフ:統計でウソをつく法
・山田剛史、村井潤一郎:よくわかる心理統計
・小島寛之:ベイズ統計学入門
・デボラ・J・ベネット:確立とデタラメの世界
・永田靖:品質管理のための統計手法
・ウィキペディア:シンプソンのパラドック
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8)
・小幡績:すべての経済はバブルに通じる

著者プロフィール

大原欽也

主任研究員

職歴
古河電工株式会社
古河物流株式会社 執行役員


調達から製造、出荷まで、サプライチェーン全般に関わってきました。また、設備導入、システム開発、マテハン設計、SCM構築等、様々な角度から課題解決に取り組んできました。課題解決には、統計手法や生産管理、管理会計等の汎用的な基礎技術が必要です。基礎技術を基に物流ソリューションを提供できれば幸いです。当法人のホームページに「旅するお荷物」と題したコラムも執筆しておりますので、是非ご覧ください。

得意分野

  • サプライチェーン
  • マテハン設計
  • SCM
  • 調達
  • 生産管理
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