労基法改正を巡る動向について
2026年6月10日
労務管理ヴィッセンシャフト vol.47
野崎 律博
◆はじめに
中東情勢の影響で燃料費高騰やナフサ不足による様々な影響が生じている今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?噂によるとナフサ不足により市場からプラスティックゴミ袋が姿を消しつつあるとのことですが、今のところうちの近所のスーパーでは在庫枯渇は生じておりません。ホルムズ海峡閉鎖によるサプライチェーン断続から生じる、本格的な影響が生じるのは6月以降といわれておりましたが、もうその月となりました。
中東情勢や物価高も大きな問題なのですが、経営者にとってもうひとつ気がかりなのは、労働基準法改正の動きです。労基法はここ40年近く、大きな改正がなされていなかった法律です。また経営者や労働者にとっても、無視できない重要な法律であり、改正内容の行方は関心が高いといえます。今月は厚生労働省が検討している労基法改正の内容について、触れたいとおもいます。
◆労基法改正の概略
労働基準法は、労働保護法制の基本法であり、罰則付きの強制既定により労働条件の最低基準を定めた法律です。本メルマガでは2025年1月に公表された「労働基準関係法制研究会 報告書」(以下「報告書」と略す)及びその後の労働政策審議会の議論内容の一部を抜粋した内容にふれます。
報告書によると冒頭に、労働基準法関係法制に共通する総論的課題として、労働基準法における「労働者」の定義について触れております。労基法上の労働者とは「職業の種類を問わず、事業に使用され賃金を支払われる者」とあります。つまり労基法の保護を受けるためには、この概念に該当している必要があります。そう考えたとき、労基法で定める労働者性は、現在保護すべき生産拠点で働く人全てをカバーしきれているのでしょうか?今回の見直しが検討されている項目の一つに、労働者の定義が含まれているのは、そこに理由があります。具体的にはプラットフォームワーカーの労働者性推定(プラットフォームワーカーが労働者に該当するかどうか)の判断基準を検討することです。プラットフォームワーカーとは聞きなれない言葉かもしれませんが、スマートフォンやインターネット上のデジタルプラットフォームを介して、単発または短期の仕事を請け負う働き手をいいます。こういわれると思い浮かべるのは、フードデリバリーに代表されるようなギグワークです。働き方が多様化する中、こういった業務を行う人が増えておりますが、これらは労基法制定時には想定されなかった働き方です。ギグワークの代表例として、配達代行や家事代行、WEBデザインやプログラミング等のSOHO業務等の一部です。ことに配達に関しては、最近急速に拡大しつつあるのは、皆様もよくご存じのことと思います。
労基法で定める「労働者」の概念は、「事業に使用される」つまり会社などの法人と雇用契約をしていることが前提となります。また会社だけでなく、個人事業主に雇用される人も労基法上の労働者に該当します。しかしプラットフォームワーカーはフリーランスが多く、事業に使用される者にはあたりません。よって労基法の労働者の概念から外れるため、労災保険や最低賃金の保護を受けられにくい環境下にあります。(但し裁判判例上は労働者性が認められる場合があります)。また同居の親族に使用される者や家事使用人も、現在は労基法の対象外です。「同居の親族に使用される者」とは、例えば家がお店をやっていて、子供が店番をやる等の場合です。皆様が身近にイメージしやすいものを挙げるならば、漫画「じゃりん子チエ」における家業のホルモン焼き屋の手伝いですね。もしあれが家の仕事でなければ、未成年者の労働契約締結時における保護を受けることになります。(労基法では満18歳に満たない者を午後10時から朝5時までの時間帯に使用してはなりません。)
また労基法改正の検討項目で皆様になじみが深いのは、時間外労働の上限規制です。運送業の2024年問題で話題となった、時間外労働の上限規制について、再度検討項目に挙げられております。具体的内容は明らかにされておりませんが、2024年問題で話題となったドライバー労働時間の上限規制が念頭にあることは、ほぼ間違いないと考えられます。ただしこれは検討項目の一つで挙げられているだけなので、どのような見直しが検討されているかまでは不明です。
もう一つには、コロナ禍で普及したテレワーク運用に関する検討も挙げられております。具体的にはテレワーク日のみを対象にした部分的フレックスタイム制やみなし労働時間制についてです。これらも具体的には明らかとなっておりませんが、何らかの規制緩和に繋がる内容ではないかと推測されます。
労働政策審議会は1月よりスタートされたばかりであり、中東問題やナフサ不足等、他の大きな問題も起きておりますので、検討がどの程度進むのか?現在は分かりかねますが、今後の動きを注視したいところです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_48220.html
(※)出典:厚生労働省 「労働基準関係法制研究会」報告書