AEO取得で通関コンサル高度化 マースク、米関税やESG規制で需要増
Daily Cargo 2025年6月19日掲載
米国の関税施策や世界的な貿易障壁、ESG規制の厳格化への対応が課題となる中、マースクは通関部門と関税・貿易コンサルティング(GTCC)部門の連携を高度化することで顧客のサプライチェーン最適化とリスク管理を強力に支援する体制を構築する。日本では今月10日付で、マースクロジスティクス&サービスジャパンがAEO認定通関業者として税関長から認証された。マースクの西山徹北東アジア地区最高経営責任者(CEO)は、「AEO認証の取得はあくまでスタート地点。通関業務とGTCCの連携を通じて、より高度で統合的な通関・関税関連サービスを提供していく」と話す。
マースクはコンプライアンスを特に重要視しており、これまで世界25カ国でAEOを取得していた。日本は26番目の認証国となり、アジアではインドネシア、タイ、中国に続いて4カ国目となる。マースクを起用する大手アパレル企業は、今回の日本でのAEO認証取得について、「マースクには10年以上通関業務をお願いしている。個人とチームが融合し、的確かつ迅速にご対応いただいてきたことが高い業務品質の実現に寄与し、今回の結果につながったものと思う」と評価。「今後もコンプライアンス体制やセキュリティ管理の一層の強化に努めていただき、輸出入の面で当社のビジネスを強固に支えていただきたい」と要望した。マースクはこれまで、C-TPAT(米国)やPIP(カナダ)に加え、ISOなどのマネージメントシステム認証も含めると世界55カ国以上で認証を取得しており、今後も世界全体で認証の取得を進めていく方針だ。
通関事業に加えて、2023年以降はGTCCサービスも本格的に強化している。足元ではグローバルサプライチェーンの構築に当たって、米国のウイグル強制労働防止法(UFLPA)やEUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)、欧州森林破壊防止規則(EUDR)など厳格化が進むESG規制への対応が求められている。マースクとして深い専門知識を生かしたコンサルティングサービスを提供することで、信頼性が高く、コンプライアンスリスクを回避した最適なサプライチェーンの構築を支援している。
北東アジア地区の宇都宮佳子通関・関税貿易コンサルティング部長は、「マースクは通関業務を、グローバルなサプライチェーンを支えるロジスティクス全体の重要な構成要素と捉えている。通関業務とGTCCの連携により、国内外の法令・規制の調査・分析を通じて、関税や輸入消費税コストの削減、ならびに関税コンプライアンスの向上を実現するだけでなく、通関実務や輸送といった物流の実行まで一貫して支援できる体制を整えている。今回のAEO認定通関業者の取得は、より高度で統合的なサービスを顧客に提供するための重要な一歩となる」と話す。
西山CEOは、「マースクとして世界各国でAEOの取得を進めており、発着地双方でAEO認証を取得することで、AEO認定輸出入顧客の通関手続きの簡素化制度の活用を支援し、エンドツーエンドでのリードタイム短縮およびコスト削減を実現する。これはお客さまの国際競争力強化に向けた一助となるものと考えている」と説明する。また、「日本におけるAEO取得準備の過程で、社内のセキュリティやコンプライアンス体制が一層強化された。今後は倉庫事業や航空運送事業についてもAEO基準のプロセス強化をしていく」とする。
米国トランプ大統領の就任以降は、日本企業や海外企業の日本拠点においてもGTCCへのニーズが高まっている状況だ。ライフスタイル・アパレル業界では、「自動車やテクノロジー業界ほどサプライチェーンが完成しておらず、流動性も高い。輸出相手国のEPA・FTA要件に関する知識が不足し、社内にノウハウが蓄積されていないため、FTAやEPAを十分に活用できず、余分な関税を払っている企業が多く見受けられる」(宇都宮部長)。米国の相互関税施策により、世界全体で関税リスクが高まる中、マースクのFTA・EPAの戦略的活用を提案・実行することで、コスト低減やリードタイムの短縮を図っていく。
自動車業界やテクノロジー業界は、製品における構成部品点数が多いことが特徴となる。一方で、サプライチェーン全体の可視化が難しく、人権デューデリジェンスに対応した体制が不十分なケースが多いことも課題だ。宇都宮部長は、「ティア1は把握していても、ティア2より先のサプライチェーンは把握できていない企業が大多数だ。現状では、UFLPAやEUDR、CBAMなどESG関連の法規制に対応できる企業は少数に留まる」と説明する。
しかし、トランプ政権移行後、UFLPAの要件が厳格化、貨物検査の強化が図られており、実際に物流が止まるケースも増加しているのが実情。EUDRやCBAMについても今年末から来年にかけて本格的に規制が開始される予定で、その対応には一層のサプライチェーンの可視化が求められる。マースクは既に貨物の原材料レベルに遡ってサプライチェーン全体を可視化するプラットフォームを展開しており、25年後半には、さらなる機能強化を施した新バージョンの展開を予定している。宇都宮部長は、「新バージョンは既に米国市場でトライアルが開始されており、販売状況も順調と聞いている。日本市場でも年内に提供を開始する計画であり、非常に大きな可能性を感じている」と語る。今回の機能強化により、サプライチェーンの上流域からスクリーニングを行うことが可能となるため、コンプライアンスリスクや調達上の課題をより早期に把握・対応できる体制が整う見込みだ。
西山CEOは、「世界的な規制の厳格化は今後も加速し、コンプライアンスの重要性がますます高まることは間違いない。GTCCは既に日本企業のニーズに応え、今後も期待が大きい領域だ。サプライチェーンの最適化やリスクマネジメント、コンプライアンスの強化に資する提案を行い、実行まで一気通貫で対応することで顧客価値を創出していく」と話した。
マースクのGTCCチームは、世界税関機構(WCO)の元ダイレクターや各国税関の元税関長・職員のほか、世界の主要会計・コンサルティング会社4社(BIG4)出身者、製造企業で関税・貿易コンプライアンス管理・AEO管理を担当していた人材などを登用している。国際貿易ルールを策定する機関の立場や視点を経験値として持っており、規制を作る機関との連携や対話を通じて、各国の通商政策や規制動向に対する深い理解や先見性を吸収できる強みを持つ。各国税関への助言やアドバイザリーボードに参画するケースもあり、ルールメイキングに関与し、世界全体のサプライチェーンの最適化を進めていく狙いもあるようだ。また、マースクの顧客にはグローバル展開を進める業界リーダーが多数を占めている。これらの企業との協業を通じて蓄積されたベストプラクティスを基に設計された専用のHS判定ツールや、バリューチェーンの可視化によって業務効率を高める独自アプリケーションも整備している。
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