物流よろず相談所

トラックGメン

2025年10月29日

『物流なんでも相談所』
岩﨑仁志


物流の重要性に気づいた国の政策は物流革新パッケージを発表し、持続可能な物流を構築するために、荷主や元請けの取り締まりを強化するためにトラックGメンを設置して指導にあたってきました。

国交省が創設したトラック物流Gメンでは、貨物自動車運送事業法に基づき、長時間の荷待ち、運賃の不当な据え置き、無理な運送指示等を行っている荷主に対して、是正のための働きかけ・要請・勧告等が行われています。今後も荷主等に対する効果的な是正指導を実施するため、この度、トラック・物流Gメンの荷主への是正指導の考え方等を規定した指針(案)が公表され、本指針(案)について意見募集が実施されているところです。

トラック・物流Gメンが設立された背景には、物流業界が直面する複数の課題があります。まず慢性的なドライバー不足や長時間労働、次に不適切な荷主や元請けと下請け物流業者取引慣行などの問題が深刻化しており、特に「2024年問題」の発端となった働き方改革関連法による時間外労働上限規制の自動車運転業務への適用が、トラック物流Gメンの設立を加速させたと考えられます。

この専門部隊の主な目的は、荷主企業や元請事業者による「違反原因行為」を監視し、是正指導を行うことにあります。違反原因行為とは、トラック運送事業者が法令を遵守することが困難になるような不当な要求や取引条件を指します、こうした行為を是正することで、健全な物流環境の構築を目指しています。現在トラックGメンはトラック・物流Gメンとして倉庫業を含めて活動を広げています。

従来の「トラックGメン」は主に荷主企業・元請事業者の法令遵守状況の監視に重点を置いていました。「トラック・物流Gメン」は対象範囲を拡大し、サプライチェーン全体の取引環境の適正化を図る役割を担っています。具体的には、倉庫業者など物流に関わる幅広い事業者からも情報収集を行うようになりました。

トラック・物流Gメンは「プッシュ型」と呼ばれる積極的な情報収集活動を行っています。従来のように通報を待つだけでなく、自ら現場に出向いて実態調査を実施することで潜在的な問題を掘り起こしているのです。具体的には、トラック運送事業者や倉庫業者へのヒアリング、荷主企業の物流拠点への訪問調査、各種相談窓口の設置などを通じて幅広く情報を収集しています。昨年11月と12月には「集中監視月間」を設け、特に重点的な監視活動を実施しました。千件以上の働きかけを含む活動をしたことは記憶に新しいところです。Gメンの違反行為への対応には次の3つの段階があります。働きかけ:荷主が違反原因行為をしている疑いがあると認められる場合に行う初期段階の注意喚起、要請:荷主が違反原因行為をしていることを疑う相当な理由がある場合に行う是正要請、勧告・公表:要請してもなお改善されていない場合の正式な是正勧告と事業者名の公表、という段階を追って対応していくことになっています。トラックGメンが違反原因としてあげているのが不適切な運賃・料金設定、無理な配送スケジュール、過度な待機時間の強要、付帯作業の無償要求の4つです。これに対応して荷主・物流業者が取るべき対策は、適正な運賃・料金設定の実施、合理的な配送計画の策定、荷役作業の効率化と待機時間削減、コンプライアンス体制の強化の4つの対応策が必要としてます。

トラックGメンは今後更なる監視体制の強化を進め、物流DXと業界構造の変化への対応しつつ、持続可能な物流の構築へ向け活動を展開していくとしてます。、

国土交通省は、トラック・物流Gメンの体制を継続的に強化する方針を示しています。人員増強や監視対象の拡大、情報収集手法の高度化などが進められる見込みで、特に、2024年問題への対応として、労働時間管理に関する監視が一層厳格化されると予想されています。違反原因行為に対する監視が強化されており、企業のコンプライアンスリスクは今後さらに高まる可能性があります。荷主企業や元請け物流事業者は、こうした動向を注視し、適切な対応を取ることが重要です。

トラック・物流Gメンの活動を契機に、物流業界全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速すると予想されます。配車システムの高度化や、荷役作業の自動化、データ連携の強化などが進み、効率的で透明性の高い物流体制の構築が進むでしょう。この様な変化に伴い、荷主企業と物流事業者の関係性も変化していくと考えられ、単なる発注者と受注者という関係から、互いに協力してサプライチェーン全体の最適化を目指すパートナーシップへと進化していくことが期待されています。トラック・物流Gメンの活動は、単に違反を取り締まるだけでなく、持続可能な物流体制の構築を促進する役割も担っています。ドライバー不足や環境問題など、物流業界が直面する様々な課題の解決には、荷主企業と物流事業者の協力が不可欠です。コスト削減や効率化だけでなく、社会的責任や環境への配慮も含めた総合的な物流戦略の策定が求められているのです。トラック・物流Gメンの存在は、そうした変革を促進する触媒としての役割も果たしていくと考えられます。Gメン活動を今後も注視していきたいものです。

著者プロフィール

岩﨑 仁志

代表主席研究員

職歴
 外資系マーケティング企画・コンサルティングセールス


物流・運輸業界に留まらず、製造業や流通業物流部門などを対象にコンサルティングを行ってきました。国内外の物流改善や次世代経営者を育成する一方で、現場教育にも力を発揮し、マーケティング、3PL分野での教育では第一人者とのお声をいただいています。ドライバー教育、幹部育成の他、物流企業経営強化支援として、人事・労務制度改定に携わった経験から、物流経営全般についてのご相談が可能です。

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