ドライバー定着に向けて
2025年12月24日
『物流なんでも相談所』
岩﨑仁志
近年転職エージェントや求人サービスも増え、離職・転職を気軽に考えることもこのところの傾向です。2026年を前にトラックドライバーの離職意識が高まっています。働き方や価値観の多様化など労働市場も変化してきており、始めからひとつの職場に長く勤めようとするのではなく、興味を引く仕事をいくつか試しながら最終的には「安定性」と「自分らしい働き方」を両立できる企業を選びたいと考える若年層が非常に多いようです。以前のような大企業重視型から小規模でも良いから充実した福利厚生や自らのスキルアップにつながる働き方またその会社そのものの成長性や社会貢献度なども重視の項目に入っています。これはトラックドライバーにとっても同じで、会社によっては成長の実態と将来イメージを描けるように本人の頑張り次第でドライバーから現場配車管理者へとキャリアアップできる人事制度を導入しているところももちろんあります。ドライバーの成長は分かり易い評価精度に反映させ賞与や昇給につなげているようです。
厚労省によるトラック運送業の改善事例によると、①当地同業他社の賃金相場を調査し、それより1~2万円ほど高い設定にする、②未経験者の給与を歩合をやめて固定給制度にし、経験者は歩合制や業種により昇級制など従業員が選べるようにする、③住宅補助や健康診断、病気やケガの保障なども社員の安心につなげる、④従業員の希望をできる限り取り入れたシフトや休暇制度を意識的に実践する、などの事例が示されています。
加えて大事なのはドライバーの心身に寄り添ったケアーです。1日の仕事をほとんど1人で過ごすことの多いドライバーはコミュニケーションの機会も限られています、今後点呼の自動点呼や遠隔点呼が広まっていくと、人のつながりはさらに減少していきます。1人の仕事を好んで入社する人もいますが、それでも気付かぬうちに、孤独のストレスは少しずつ溜まっていくと考えられます。特に事故や渋滞に巻き込まれたり、長い荷待ちや理不尽な荷役など安全に集中できないような状況にも1人で耐えていかなければならないのなら、辛さもつのる一方でしょう。勤務時間制限の中でも今こそ全員参加のイベントを行なったり、1on1ミーティングの実施やグループ編成などで気分転換を図ったりするなどメンタル面でのケアーも強化していくことが必要です。企業成長のための人材育成はまず社員の心身が健全でなければ効果もありません。2026年の壁と崖を一丸となって越えて行くためにも同志である従業員の心を知り、互いにわかり合える環境を整備しておきたいものです。
2026年、国内物流企業は人件費、燃料費などのコスト増やドライバー不足、また荷待ち、荷役時間短縮の義務化など様々な問題に直面します。物流領域における人手不足は顕著である一方で、その市場はいまだに拡大の一途をたどっています。業界のマンパワーではさばききれない程の需要に伴ない、嬉しいはずの悲鳴は同時にあぶり出された課題に苦悶する叫びにも聞こえます。各社が抱える課題は状況により様々であり、その解決策もまた、複雑な内容に沿ったデリケートな部分が多いことでしょう。ただ忘れてならないことがあるとすれば、自社の現状と目指す目標をしっかり認識し、幹部・従業員の力をひとつにまとめる基盤作りを行なっておくことです。重要な即戦力である社員の労働環境は整っているでしょうか。多様な人材の確保は、多様な働き方を社内で確立させた後に行なうべきであると考えます。
物流業界に「働き方改革」が施行されて来年4月で2年となります。 新政権による労働時間規制の見直しが、再び議論の争点に浮上しそうなこの年末。周囲に惑わされることなく、自社ドライバー・スタッフが働きやすさとやりがいを感じることができる労働環境作りに専念しておきたいものですね。