運賃交渉への備え
2026年8月19日
『物流なんでも相談所』
岩﨑仁志
2030年、物流業界の輸送能力は34%(約9億t)不足と予測されており、また65歳以上の高齢者が総人口の30%を超える見込みです。トラック運送業界では、引退するドライバーも急増するものの、労働人口の減少が著しい中、新たな人材を補充できないことも懸念されます。一方で、ECの発達などもさらに進み、2030年には需給ギャップがさらに広がることが考えられます。特に地方においては今のサービスレベルでは物を運べないリスクが現実となる可能性が大きいのが実情です。運送会社の9割を占める中小事業者にとって、ドライバーの労働時間規制対応や運賃交渉は今後もハードルの高い困難な課題であることに変わりはありません。国が定めた標準的運賃(令和6年3月告示)も、現時点でその7割以下しか支払われていないとする事業者が全体の54.8%にものぼりました。荷主から直接仕事を請負う元請け以下の下請け業者となると運賃交渉はさらに困難となることが考えられます。物流業界における多重下請けの「当たり前」が生んできた様々な問題があります。①ドライバーの低賃金や人手不足は一次下請以降になればなる程深刻化。②2次以降の実運送事業者は荷待ちやそれに伴う費用交渉など未解決課題もまだ残っています。③低賃金で仕事を丸投げに近い形で押し付けられる3次以降の小規模業者を減らしていかなければこの先物流システムの安全性そのものが崩れたり、基盤を支えていた事業者の業績が悪化、倒産件数も増えることになります (2023年、 軽貨物運送業の倒産は3年連続増加、 過去最多)。
改正物流効率化法と、取引適正化法の施行に伴う「荷主からの効率化要求+コンプライアンス遵守のプレッシャー」がいま、中小物流企業に重くのしかかっています。運送業務のデジタル化による輸送効率の最大化と荷主の適正な価格転嫁は絶対避けては通れない重要課題となっています。
トラック運送業の「適正原価」導入に備えるには、経営データの“見える化”と、原価構造の再設計を同時に進めることが不可欠です。適正原価制度導入は「価格の透明化」と「不当な安値競争の是正」が目的なので、事業者側は“説明できる原価”を持つことが最大の武器となります。
今、適正原価導入に向けて備えることは、運行に必要なコストを「実際に説明できるレベル」まで分解することです。具体的には、車両費(減価償却、リース料、車検・整備)、燃料費(実車・空車、渋滞、待機の影響)、人件費(拘束・運転・荷役・休憩の区分)、間接費(配車、事務、拠点維持費)、外注費(下請け運賃、協力会社費用)など。ここで重要なのは「実際の運行と紐づく数字になっているか」で、適正原価は“実績データ”が基礎になります。デジタコ・ドラレコのデータには、燃費・走行距離・アイドリング、荷待ち・荷役時間、配車効率(積載率・回転率)が明らかになっています。これらを「運行ごとに原価へ変換できる状態」にすることが制度対応の核心となります。適正原価制度は“値上げの根拠を示せる事業者が強くなる”仕組みであり、原価に基づく見積書フォーマットには、運行別の損益計算、荷主との協議記録、適正運賃の説明資料などです。具体的には「この運行は原価は○○円がかかっています」と言える状態が交渉力の基礎になっていくと考えられます。その効果は、
- 荷待ち・荷役の扱い(拘束時間の原価化)
- 積載率の改善圧力(空車率が原価に直結)
- 燃料高騰の転嫁ルール
- 下請け運賃の透明化
- 標準的運賃との整合性
適正原価制度導入後は「曖昧な慣習」より「説明可能な原価」が優先されることになります。今すぐ準備することは以下の通りです。
- 運行別の原価計算テンプレート作成
- デジタコデータの分析項目整理
- 荷主との協議資料の標準化
- 自社の原価構造の強みと弱みの診断
これらの準備を整え、運賃交渉に臨んでいただきたいと思います。運賃交渉の進め方は次号で触れてまいりたいと思います。