続・徒然日記

大秘境、黒部のキャニオンルート開通へ

2026年8月19日

『続・徒然日記』
葉山 明彦


◆黒部峡谷地下を走る壮大なルート
今年の夏山は8月上旬に立山・室堂に行ってきた。北アルプスには毎年行くことにしているが、昨年は雲ノ平で線状降水帯に遭い散々だったのに対し、今年は日焼けが心配なほどピーカンの2泊で天気は上々。当初、3000m級の立山連峰登山を予定したが、体調と相談して少し楽な浄土山(2831m)を周回してきた。

この一帯は立山黒部アルペンルート(長野県扇沢バス駅~室堂~富山県立山バス・電鉄駅、以下アルペンルート)の中心部で日本有数の山岳観光地だが、隣接する黒部ダムを結節点にこの秋、もう一つ大きな観光ルートが開設される。一般向けの開放が延期されていた黒部宇奈月キャニオンルート(以下キャニオンルート)が10月2日開通することが決まった。富山県の宇奈月温泉からトロッコ電車(黒部峡谷鉄道、以下峡谷鉄道)で終点欅平までの21㌔と、そこから黒部峡谷の地下トンネルを通るトロッコおよびケーブルカーで黒部ダムまで18㌔をつなぐという壮大なルートである。

写真①この谷の地下をキャニオンルートが走る(黒部ダムから下の廊下方面を展望)

黒部宇奈月キャニオンルート地図(出典:富山県)

◆関西電力の歴史ある作業道
このルートは関西電力が戦前(当時は日本電力)から黒部川流域の水源開発のため切り拓いた作業道で、今日では黒部ダムを含めた各ダム・発電所の資材運搬を含めた管理運営を担っている。黒部峡谷は人を寄せ付けない深いV字谷でアルピニストでさえ畏怖のエリアだが、電源開発のためとはいえ、戦前から行われてきた作業道設営には人命の犠牲も含め多大な苦労で築いてきたことで知られる。

地上部分で現・峡谷鉄道の宇奈月~欅平間トロッコ電車は、戦後世間からの強い要望で1953年に一般観光用に開放されたが、その先の地下トンネル部分については関電が輸送の安全面や業務上の支障を理由に長年閉ざしてきた。ただ近年は見学や試乗の要望が強まり、ここ数年抽選で一定人数を受け入れてトライアルを実施、応募者が増えていた。富山県はこれに目をつけ、北陸新幹線の開業を機に観光促進の目玉になると新田八朗県知事がキャニオンルート開発に精力的に取り組んだ。この結果、関電との合意を経て2024年から開始する段どりとなっていたが、2024年正月に起きた能登半島地震で峡谷鉄道の鉄橋が落石で破壊され開通は先送りに。被災場所が難所な地形だけに重機や資材搬入ができず、復旧に時間がかかったが、やっと日の目をみることになった。

黒部宇奈月キャニオンルート見取り図(出典:富山県)

◆トンネルを5つの乗り物で
富山県の説明によると、地下トンネル部分となる欅平から黒部ダム間は所要時間約2時間45分を5つの乗り物で移動することになる。欅平側から説明すると、まず峡谷鉄道駅からトロッコ電車で3分間、堅坑エレベーターの下部まで移動。次に2番目の乗り物となるこのエレベーターで標高を200m上げ上部に移動。そこには堅抗展望台があり最初の外気が吸える所だ。眼前の奥鐘山のほか白馬三山の白馬鑓ヶ岳も見えるという。その先は3番目の蓄電池機関車で6.5㌔・約35分、インクライン下部までほぼ水平移動することになる。地上には水平歩道という断崖絶壁の登山路がある部分で、地下でも同様に水平路になっているようだ。この途中に「高熱隧道」(著・吉村昭)という小説にもなった岩盤の温度が160度を超える場所があり、坑道造営時にはダイナマイトが自然発火する事故もあったという。地上には阿曽原温泉小屋という山小屋がある辺りで硫黄泉が湧き出る。また、その少し先に地上に出て鉄橋を渡る所があり、ここで外気を吸えて仙人谷ダムとその背後に雲切の滝を展望できる。

蓄電池機関車はインクライン下部で下車し、次は4番目のインクラインという発電所用のケーブルカーに乗り換えて、高低差456m・斜度34度という急勾配をインクライン上部まで20分で駆け上がる。このケーブルカーは重量250トンの大型機器を運搬でき、人員は36人乗れるそうだ。インクライン上部の標高は1325mで最後5番目となる専用バスにより標高1470mの黒部ダムまで10.3㌔・約40分乗る。途中にタル沢横抗展望台があり、剱岳裏側の雄大な景色と極東最南端の氷河雪渓を望めるというので必見だ。黒部ダムからはアルペンルートで扇沢(信濃大町方面)、室堂(富山方面)のいずれかに出て旅を終えることになる。もちろん黒部ダムから入って欅平に抜ける逆のルートも利用可能だ。黒部ダムでアルペンルートとT字形にアクセスすることで、ここら一帯の山岳観光は確実に深みを増す。私個人としてもキャニオンルートが通る地上部分は下の廊下(黒部ダムから黒部川下流)、剱沢下りなどで3回遡行したことがあり、その地下がどうなっているのか体験できると思うと興味津々だ。

写真②黒部宇奈月キャニオンルート/蓄電池機関車(出典:富山県)

写真③黒部ダムでアルペンルートとアクセス(出典:富山県)

◆2700人募集で完売の見込み
初年度の今年は10月、11月の2カ月間限定で、旅行会社1180社を通じ2700人を募集する。このため今年は個人でフリーに行くことはできず、大手旅行会社は前後に宿泊と輸送、近隣観光をつけたパッケージツアーを7月下旬から売り出している。これらの商品をみると思ったより高価だ。例を挙げるとJTBの3日間(首都圏発着北陸新幹線グリーン車付、富山・宇奈月泊)が若干の近隣観光付きで25万~27.5万円、1泊2日でもクラブツーリズムのプレミアムステージ富山発着が19万~20万円、アルピコ長野トラベルの長野県発着(富山1泊)が16.98万~17.48万円という具合。この基準となっているのが、新田知事が2年前に記者会見した時に宇奈月~黒部ダム~ホテル立山の基本コース1泊2日で、代金はアルペンルート・峡谷鉄道の運賃、宿泊費、食費、ガイド料など含め13万円ほどが適正と示したことだ。関電が中心となる未踏域のツアーだけにコスト算定も難しいが、我々の旅行感覚で乗り物代や食事宿泊代等を積み重ねた数字にプラスアルファしてもはるかに上を行く。それでも売れ行きは好調のようで、近く完売する見込みだという。私自身は今秋既に予定が埋まって行くことができないため、来年以降となりそうだが、来年はシーズン5カ月間に約8000人を募集することが見込まれている。(了)

著者プロフィール

葉山明彦

元 国際物流紙・誌の編集長、上海支局長など歴任

40年近く国際関係を主とする記者・編集者として活動、海外約50カ国・地域を訪問、国内は全47都道府県に宿泊した。国際物流総合研究所に5年間在籍。趣味は旅行、登山、街歩き、温泉・銭湯、歴史地理、B級グルメ、和洋古典芸能、スポーツ観戦と幅広い。

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