物流よろず相談所

日本郵便許可取り消しへ

2025年6月25日

『物流なんでも相談所』
岩﨑仁志


大手新聞社の一面に日本郵便の法令違反による許可取り消しに国交省が動いていることが明らかになり、日本全体を震撼させました。この影響は決して小さいことでは済みません。法令を軽視してきた日本郵便の責任は大きいと言わざるをえません。

日本郵便における大規模な点呼不備問題で、国土交通省が同社に対し、貨物自動車運送事業法に基づき、トラックなど2500台を対象とした運送事業許可を取り消す方針を固めたことが明らかになりました。全国の郵便局で長年にわたり安全管理の根幹である点呼が実施されず、さらに記録の偽装も常態化していたことを重く見たもので、大手事業者に対する事業許可取り消しは極めて異例の最も重い行政処分となります。しかも国有企業とも言える日本郵便の失態は以前に悪徳荷主として名前を上げられるなど企業風土そのものに官僚時代からの甘えがあるとしか言えません。

この問題は、日本郵便が4月23日に公表した内部調査結果で表面化しました。全国3188の集配郵便局のうち、実に75%にあたる2391局で、乗務員の健康状態や酒気帯びの有無などを確認する点呼業務に何らかの不備が確認されたという内容でした。物流企業において最も需要な点呼を実施しないということは、中小企業ならいざ知らずも、大手ではありえないことです。同報告書では、点呼を行わずに乗務することは重大な法令違反と認識しつつも、「点呼を実施していないにもかかわらず、点呼記録簿は作成するという行為が行われていた」と、記録の改ざん・不実記載という悪質な偽装工作の存在も認めています。これらの報告と事態の深刻さを受け、国土交通省は4月25日から日本郵便に対し、貨物自動車運送事業法に基づく特別監査に着手しました。全国の郵便局への立ち入り検査を進めていました。報道によると、特別監査では、日本郵便が報告した以上の点呼未実施や、さらに悪質な記録改ざんが多数確認されました。関東運輸局管内では、監査結果に基づく累積違反点数が、事業許可の取り消し基準である81点をすでに超過してしまいました。貨物自動車運送事業法では、事業許可が取り消されると5年間は再取得ができないことになっています。日本郵便は、年間10億個を扱い市場の2割を占める「ゆうパック」や郵便物の拠点間輸送に、許可対象の貨物車を広範囲に利用しています。事業許可取り消しとなれば、これらのサービスへの影響は必至で、同社は子会社の日本郵便輸送や協力会社への委託を大幅に増やすなどの対応を迫られるとみられています。

日本郵便の許可取り消しに伴い、業界に波紋が広がっています。協力会社が増便するなどして対応が進んでいますが、幹線輸送、宅配などへのしわ寄せも考えられます。夏のお中元シーズンも間近に控え、宅配事業で20%のシェアを持つ同社の関東圏の輸送力が落ちることから、各方面への影響が懸念されています。ユニバーサルサービスを実施している日本郵便の失態の影響は国民生活にも大きな影響を与えることは必須だと言えるでしょう。

国交省は、月内にも日本郵便に対し処分案を正式に通知し、行政手続法に基づく聴聞を行った上で、事業許可を取り消す方針です。関東運輸局管内で許可取り消しが確定すれば、ほかの地方運輸局管内を含め、影響は全国に及ぶことになります。日本郵便内部では、許可制のトラック輸送から届け出制の軽貨物車へのシフトや、車両・人員の子会社への移管などが検討されているとの情報もありますが、国土交通省はこうした動きが事実上の「処分逃れ」とならないよう、厳しく監視する姿勢を示しています。日本郵便による法令違反は国営であった時代に軽視してきたそのままの流れが運輸業として運営されても改善されなかったことを示しています。日本郵便はこれまで国営企業として高速道路通行料、駐車違反切符をきられないなど不公平とする他宅配大手も多くいただけに今回の厳しい措置以降の動きが注目されるところです。

著者プロフィール

岩﨑 仁志

代表主席研究員

職歴
 外資系マーケティング企画・コンサルティングセールス


物流・運輸業界に留まらず、製造業や流通業物流部門などを対象にコンサルティングを行ってきました。国内外の物流改善や次世代経営者を育成する一方で、現場教育にも力を発揮し、マーケティング、3PL分野での教育では第一人者とのお声をいただいています。ドライバー教育、幹部育成の他、物流企業経営強化支援として、人事・労務制度改定に携わった経験から、物流経営全般についてのご相談が可能です。

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