物流なんでも相談所

コロナ拡大でBCPの見直しを(2)

2021年8月25日

物流なんでも相談所 Vol.35

 

相次ぐ自然災害やコロナ感染拡大でBCPの寸断が話題に上るようになってきました。しかしながら、国内物流の大半を担っているトラック運送業は、労働時間が長く賃金が低い傾向にあり、若年入職者が減少しているほか、これに伴い就業者の高齢化も進展しています。トラック運送業における人手不足は、足元では新型コロナウイルス感染拡大を受けて一時的に緩和しているものの、事業者にとって深刻な課題となっています。一方、国内のEC市場は拡大が続いており、BtoCの市場規模はこの10年で約2.5倍にまで拡大、フリマアプリ等の浸透もあり、CtoCの取引も増加傾向です。こうした理由から宅配便取扱個数は増加傾向で推移、国内のEC化率は9%程度と、中国等の海外諸国に比べれば依然低く、今後もさらなる市場拡大が見込まれています。輸送費の増加を主因に、荷主側における物流コストは2011年度以降増加傾向で推移。需給環境を見れば、人手不足等を背景に今後も大幅な供給不足が続くと予測されている上、物流事業者の労働環境改善に向けた取り組みの進展等もあり、今後も物流コストの増加は避け難いとみられます。

物流業において2018年の大阪北部地震と台風被害の発生は、自然災害がいつ、どこにでも発生することを再認識する機会になり、物流拠点の再配置を課題化する企業が増加しています。物流拠点の分散化や、古い施設を統廃合する動きなども出ています。大型拠点開発が進んでいることも要因の一つです。物流効率化推進によって残業時間の抑制と、走行距離・時間を考慮したエリアに、物流拠点の再配置を考えることも増えてきました。これまで自然災害がいずれかのエリアで発生した場合、他の拠点で業務を補完することや人的応援をすることが可能でしたが、コロナショックは、発生予測が困難であるのみならず、今後も各地で頻発する懸念や、人の移動を抑制することもあることから、企業は物流BCPの見直しと、さらなる体制づくりが喫緊の課題になってきました。コロナウイルス感染が発生した拠点は、消毒の為にしばらく業務を停止せざるを得なくなります。その拠点に人の応援を出すことも難しくなります。リスクヘッジの観点から、できる限り少ない人手で運営できるようにロボット・自動化設備などの導入、手荷役業務の削減などが検討課題となり、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する要因にもなっています。

製造業・商社の荷主物流拠点は、従来は大型化・統合する施策の目的は効率化とコスト低減でしたが、近年に自然災害が多発していることから、リスクヘッジとしての観点も鑑みるようになってきています。機能が止まることの損失予測が経営判断に大きく影響してきています。首都圏や近畿圏のDC拠点(在庫型物流拠点)の再配置の検討案として、1拠点に集約するのではなく2~3拠点で在庫・出荷するというしくみがあります。そのようにすることで、もし1拠点が機能しなくなった場合は、他の拠点である程度の業務補完ができるようにする考え方もあります。企業にとって売上構成比の高い商圏は、リスク回避策がビジネスを継続できるようにすることが重要なテーマになってきています。

この数十年にわたって販売価格のダウンが続いてきましたが、コロナショックがこの転換期になるかもしれません。極端な価格の変動はないでしょうが、低価格戦略が減少するきっかけになるかもしれません。引き続き物流費や人件費の負担増加が予測され、効率化に向けた新たな設備投資も必要であると考える企業は多く、今回のコロナショックのようなリスク発生に際し、売上の減少にも耐えられる企業体質を目指す重要性を認識された経営者が多いのではないかと思います。今一度自社におけるBCP対策の観点ら体制を見直す必要がありそうです。

著者プロフィール

岩﨑 仁志

代表主席研究員

職歴
 外資系マーケティング企画・コンサルティングセールス


物流・運輸業界に留まらず、製造業や流通業物流部門などを対象にコンサルティングを行ってきました。国内外の物流改善や次世代経営者を育成する一方で、現場教育にも力を発揮し、マーケティング、3PL分野での教育では第一人者とのお声をいただいています。ドライバー教育、幹部育成の他、物流企業経営強化支援として、人事・労務制度改定に携わった経験から、物流経営全般についてのご相談が可能です。

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