続・徒然日記

レインボーブリッジ/台場の小さな旅

2025年6月18日

『続・徒然日記』
葉山 明彦


東京最大の架橋レインボーブリッジが開通して32年、車では何度も通ったが一度歩いて渡りたいとずうっと思っていたところ、このほど実現の機会があった。ある旅行会社が幕末の旧台場を含めたウォーキングを募集していたのを見つけ、台場跡も見てみたいと思っていただけにすぐさま応募し、実現にこぎつけた。ガイドは付くが歩くのや体調管理はすべて自己責任。今回はこの時のウォーキングの様子を書いてみる。

地図/レインボーブリッジ(黄色が芝浦側アンカレイジ=入口、赤が台場側出口)出所:国土地理院

大型客船も通れる50m超の高さ

レインボーブリッジは芝浦と台場地区を結ぶ吊り橋910m、芝浦側ループ橋と陸上部分および台場側の海上・陸上アプローチ部分を含めると3700m超にもなる。構造的には2階建てとなっており、上階部分は首都高速道路11号線、下階部分は新交通システム「ゆりかもめ」とその両脇に無料の一般車道、歩道がある。今回は芝浦側のアンカレイジ(吊り橋のケーブルの端を定着する大きなブロック)からエレベーターで歩道入口まで登り、海を眼下に吊り橋部分を歩いて台場側出口へ、その後歩いて行ける第3台場を見学した。橋の歩道は南側、北側のどちらかのルートを選んで歩く。北側が都心部の陸地景色を眺望するのに対し、南側は台場、大井方面に海が開け、後に説明するが旧台場跡の島を眼下に見下ろせるため南側を歩いた。

写真①レインボーブリッジ(右は芝浦側アンカレイジ)

歩道は海上から50m以上の高さがあり、予想はしていたが風が強くウインドブレーカーが役立った。海上からの橋の高さは当時の大型豪華客船クイーンエリザベス2世号(QEⅡ)が東京港(当時の晴海客船ターミナル)に入港できる(橋下をくぐれる)よう設計されたためだが、結局QEⅡは東京港に来ることはなかった。現在は東京国際クルーズターミナルを青海に新設したため、大型客船がこの橋をくぐる必要がなくなった。

歩道の脇は一般車道で通る車はけっこう多く、また中央部のゆりかもめも時々通過するのでこれを見るのも面白い。騒音はそこそこ大きいがこれは仕方ない。南側に見える景色は、右端に円形のループ橋があり、海を隔てた正面には品川ふ頭、大井ふ頭のコンテナターミナルとその奥にある羽田空港の発着機、左は第6台場とその向こうにフジテレビやホテル群が見える。ループ橋は芝浦側のゆりかもめと一般車道をレインボーブリッジとつなぐ円形でゆるやかな坂道。高度差が大きく後背地に直線的なアプローチ道が作れないため、面積が少なくて済むループ状にして作った。

写真②第6台場と台場1丁目(球形のある建物はフジテレビ)

台場という歴史の舞台

歩を進めると第6台場が近くなってきた。台場というのは幕末の黒船来航で幕府がにわか仕立てで造った黒船を迎撃する砲台島のことだ。幕府は品川から豊洲まで12カ所の建設を計画したが、このうち実際に建設されたのは品川~お台場の7カ所で、現在の江東区側は着工もされなかった。また、建設された台場も明治以降今日までの海岸埋め立てでほとんどなくなり、現存するのはこの第6台場とこの後歩いた第3台場の2つだけとなった。第6台場は深々としたジャングル風で都心の秘境だけに興味津々だが、現状は野鳥の住み家となって糞がひどいらしく、一般には立入禁止となっている。なお、2つのほかに細長い緑地島が2~3あるが、これは防波堤で幕末でなく関東大震災後のガレキで建設されたそうだ。

さらに歩を進めると第3台場の前に来るが、このあたりは台場側アプローチ部分で坂を下っていくため第3台場が大きく見えて迫力がある。この先で渡橋を終え、台場側出口を出るとすぐ第3台場に続く道に入ることができる。第3台場は現在一般人が歩いて見学できる唯一の台場跡で、この地に足を踏み入れるだけで歴史の舞台に立ったような気になった。1辺の長さが170mほどの正方形状で周囲は土塁に囲まれ、砲台の台座跡が現存する。内側は四角形の窪地になっていて陣屋跡、かまどや食糧庫、弾薬庫跡がある。また角の1カ所に波止場跡があり、現在は使用禁止だが、当時はそこから人や物資が入ったのだろう。土塁も窪地も今は草木青々でまさに夢の跡である。幕府はこれら台場の建設に莫大な費用をかけたが、結局は砲台を使うことはなく、台場はまったく機能しなかった。ただ江戸末期から明治にかけての歴史を振り返るとそれはそれでよかったのだろう。そんなことを思いながら約3時間、気がつけば1万8千歩のウォーキングだ。ちょっと疲れたが小さな楽しい旅をした。

写真③第3台場の砲台座跡(背後はレインボーブリッジ)

著者プロフィール

葉山明彦

国際物流紙・誌の編集長、上海支局長など歴任

40年近く国際関係を主とする記者・編集者として活動、海外約50カ国・地域を訪問、国内は全47都道府県に宿泊した。

国際物流総合研究所に5年間在籍。趣味は旅行、登山、街歩き、温泉・銭湯、歴史地理、B級グルメ、和洋古典芸能、スポーツ観戦と幅広い。

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